「悪果」黒川博行

「38にもなっていまだに巡査部長いうのは、よほど試験に向いてないんやね」
「おまえ、殴られたいんか」
「なんやの、その顔。怒ったん」
「教えといたろ。警察官は三とおりある。ごますりの点取り虫と、まじめなだけのボンクラと、ほんまもんの捜査ができる本物(モノホン)の刑事や。おれは本物のマル暴担やぞ」


 面白いです(・∀・)
 この、ハチャメチャ感と大阪弁が何とも云えません。
 主人公の堀内信也は、38歳。大阪府下のB級警察署である今里署(東成署がモデル?)で、暴力団犯罪担当刑事をしています。階級は巡査部長。家族は、マルチ商法にハマっている妻と二人暮らしで子供はいません。
 杏子(本名・若江涼子)というクラブでホステスをしている愛人がいます。愛人なのか騙されているだけなのかわかりませんが。
 相棒は、伊達という180センチ、95キロの柔道四段、37歳。唯我独尊直情径行の快男児。
 堀内と伊達のマル暴コンビ、昼間っから勤務中に酒を飲んでいます。ヤクザと麻雀をすれば勝った時だけ金を取り立て、負けたときは払いません。いきつけの高級クラブはいつ行っても5千円ポッキリ。ヤクザの守り料より安いのです。しかも、堀内は警察の犯歴情報などの個人情報をネタと交換したり、アンダーグラウンドの業界紙の不良ライターに強請りネタを売りつけ、シノギをしていました。
 暴犯係の刑事はヤクザの犯罪を取り締まるのが仕事であり、どれだけの情報をもっているかでその手腕が分かります。日頃から組事務所に顔を出してようすをうかがい、ときには個人的な相談にのって情報を拾うのですから、必然と個人プレイになります。刑事は情報が命であり、相手が上司であれ同僚であれ、不用意に情報を垂れ流していたら自分の首を絞めることになります。情報は独占してこその値打ちであり、持ちネタが多ければ多いほど、“この世界”ではうまく立ち回れるのです。出しぬいてナンボ、なのです。
 家のローンを抱え、リッチウェイというマルチにかかりっきりの妻に生活費を毎月渡しながら、毎晩のように遊んでいるのは、堀内に暴力団犯罪担当刑事という、特殊な利権があるからです。
 堀内にしても、若いころはまじめに試験を受けて昇進し、交番勤務のころは地域交流に熱をあげたものですが、コネも引きもない三流大学卒のノンキャリアでは、どう頑張っても警部がせいぜいです。そう思うと、マル暴担の足元にはシノギのタネがいくらでもころがっています。これほど美味い稼業はほかにないのです。出世よりカネです。Sクラスのベンツに乗り、いい女を抱き、羽振りをきかせてこそ、男に生まれた甲斐がある、これが堀内の現在のポリシーでした。

 これだけの悪徳刑事なのに、不思議にまったく読んでいて厭な気がしません。なぜでしょう?
 クライマックスにかけて、堀内は追い込まれます。シノギのタネだった業界紙のライターが轢き逃げで殺され、自分もヤクザに襲われて、命の次に大切な警察手帳を取られてしまうのです。月曜の朝には警察署で装備点検があり、それまでに手帳を取り返さなければなりません。はっきりって自業自得なのですが、思わず堀内を応援してしまうのです。なぜでしょうね。ざまあ(笑)とは思いません。
 たぶん、なにかこう、この人間はうまくいっていないというのを感じるからなんでしょうね。
 杏子にしたって、愛人とは云えません、金づるとして体よく利用されているだけです。
 むしろ、今里署の他のやる気のないメンバーに比べて、優秀な刑事じゃないですか。その割には報われてないのでは、と逆に気の毒に思ってしまうのかもしれませんね。あがきながらも生きている、という感じが悪くない。
 ラストは思わぬことになりました(笑)ありえませんよね。
 続編の『繚乱』で堀内と伊達の名(迷)コンビがどうなっているのか・・・楽しみです。

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