「信長の二十四時間」富樫倫太郎

 天正10年6月2日(1582年6月21日)、本能寺の変。
 天下統一が目前に迫っていた、織田信長が倒れました。
 本作は、本能寺の変の当日をクライマックスとし、変にいたる背景を説く第1章「三職推任」、第2章「本能寺前夜」、第3章「信長の二十四時間」の3部構成となっています。
 天正9年、4万5千の大軍で挙行された織田軍による伊賀攻めによって、伊賀の生き残り忍者にとって信長が不倶戴天の敵となったことを物語の導入とし、連歌師里村紹巴に扮する伊賀百地党の頭・百地丹波や、伊賀石川村の文吾(石川五右衛門)など忍者が活躍することが、数多ある本能寺小説の中では本作の特色となっています。
 そして、本能寺の変の真相もまた、聞いたこともない、おそらく作者独自の解釈半分にエンターテインメントを融合させた面白いものでした。信長の事後はともかく、秀吉の絡み方がなかなか興味深いかと。
「なんだバカバカしい」と切って捨てるのはどうかと思います。確かに、信長のキャラクターの描き方といい、少し下手くそだなと思われる部分もありますが、納得できる新しい解釈もありましたし、私はそれなりに楽しみました。
 法華宗の本能寺が、比叡山の僧兵に襲撃されて壊された過去があった、なんてことは読むまで知りませんでしたし。
 
 最近の本能寺を舞台にした小説やドラマなどのメディアは、朝廷黒幕説に傾いていますね。
 信長は、時の正親町天皇に譲位を迫っていました。
 天皇の第5皇子である誠仁親王の皇子・五の宮を猶子とした信長は、将来自分の娘を五の宮に娶せ、その娘が生んだ皇子を天皇とし、自分の血が皇室を支配することを望んだのです。だから、正親町天皇を譲位させ、誠仁親王に天皇になってもらいたかったのですね。
 これはおそらく事実でしょう。信長は、征夷大将軍やら関白やらには何の関心もありませんでした。幕府を開こうとする意志がなかったのです。本作の解釈では、御恩と奉公という慣習、主人が土地を与え、その土地を守ってやるかわりに配下は命がけで主人に奉公する、というような慣習を信長は嫌っていたと書いています。
 頻繁に武将たちを国替えさせ、土着勢力と結びつくことがないようにしたのです。
 そして、天下統一が秒読み段階に入ったとき、すべての領地を朝廷に返上し、その上で諸国に朝廷の任命する代官を派遣するという強力な中央集権体制を考えだしました。代官に武力はありません。文と武を分けるつもりだったのです。もちろん、朝廷の黒幕には信長がでんと構えている、そういう国家を考えていました。
 まあ、ありえますわな。室町幕府も鎌倉幕府も、中央が弱るのと地方が強くなるので倒れましたから、幕府など開いても歴史の二の舞である、それより古来から連綿と続く朝廷を利用してやろう、と織田信長という日本史上における画期的な革命児が考えついたとしても何の不思議もなく、いや当然かもしれませんね。
 もちろん、武力こそありませんが外交力や交渉力に長けた朝廷も黙っているはずがありませんが……
 しかし、武将はたまりませんわな。羽柴秀吉や明智光秀は、有能であり信長の天下統一に大いに役立っているからこそ、信長の目には危険な存在に映ってしまいますし、彼らもそれを自覚しているのです。
 それは、信長の嫡男である信忠も例外ではありませんし、3年前、信長に命じられて妻と息子を殺した徳川家康も、何があろうと信長に疑われたくないと思っていました。
 無能だと追放されるし、有能だといつ殺されるかわからない。これほど辛い渡世はありません。それほど、信長という人は恐れられていましたし、猜疑心が非常に強い人物でした。
 しかし、猜疑心が強いということと、用心深いということは別かもしれませんね。
 本能寺に本当に地下室があればね……歴史は変わっていたでしょうが……
 逆に、死体が跡形も残らないほど火薬を用意していたというのもおかしいですし、供回りが百人しかいなかったことを考えると、急にそれだけの火薬を用意できたというのも不自然です。
 だからといって、生きていれば表に現れなかったのはもっと不思議だし、光秀にしてもはっきりとした死体は見つかっていませんし、伝説はたくさん残っています。
 やはり、本能寺は謎ですね。400年以上経ちながら、いまだに興味をそがれることはないのですから。


 
 
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