「六人目の少女」ドナート・カッリージ

 森で発見された六本の腕。
 DNA検査によれば腕の持ち主は白人の少女であり、世間を騒がせていた連続少女誘拐事件の被害者のものであることは間違いなかった。
 一週間のうちにデビー、アネケ、サビーネ、メリッサ、カロリーネの5人の少女が誘拐され、その後17日間にわたる長い沈黙が続いていた。森で腕の墓場が発見される、このときまで。
 身元が不明である六本目の被害者はいったい誰なのか。そして六本目の腕にだけ奇妙な細工がされていたのはなぜか。
 犯罪学者ゴラン・カヴィラ博士が率いる犯罪行動科学部の特捜班(最年長で情報管理者であるステルン、情報処理のエキスパートであるサラ・ローザ、尋問の専門家であるボリス)は彼らが呼ぶところの犯人“アルベルト”を懸命に追い、子供の失踪を専門とする応援のミーラ・ヴァスケス捜査官(32)は、謎である六人目の少女の身元を明らかにすべく新たに行動科学部に迎えられた。
 次々と浮かんでは消える“アルベルト”の正体。捜査陣をあざ笑うかのように発見される少女の遺骸。
 常に先をいく真犯人の計画(デザイン)により、捜査は難航し泥沼にはまる。
 「神は何も言わない。ささやくのは悪魔だ」
 人間はいつ怪物になるのだろう。どのようにして人は怪物となり、一線を越えたことを自覚するのか。
 気鋭のイタリア人作家が描く、ある意味『羊たちの沈黙』を越えたといっても過言ではない、新感覚のサイコ・ミステリー。

 イタリア、それも雪が積もって、1800年代の建物があるということで舞台は北イタリアを想定して読んでいましたが、ついに一度も地名や貨幣など物語の舞台を表す名詞は登場しませんでした。
 これにはわけがあったようで、作者は場所を特定してしまうと一部の読者にとっては物語が遠くなってしまう、この恐ろしい話は世界のどこにでも起こりうる身近な危機なのだ、ということを場所を明示しないことで逆に強調したかったみたいです。とはいっても、私は日本人ですから、登場人物の名前からして異国ですし、やはり北イタリアという想定で読んでみて間違いはなかったと思います。
 警察の捜査陣も、もろイタリアっぽかったですよ。出世に余念がないリーダーのロシュ警部(警部という階級は日本より価値が高いようだ)、女たらしのボリス、おしゃれなステルン、美貌のミーラが気に食わない腰の贅肉がジーンズに乗っている40歳のサラ・ローザ、そして陽気な反面、暗さも目立つというイタリアン・エリートの象徴とでもいうべきゴラン・カヴィラ。そして霊媒で捜査に助言を与えるニクラ・パパキディス。
 “スタジオ”と呼ばれる隠れ家に特捜班が合宿するのですが、男も女も同じ部屋にあるベッドに寝るんですよね、日本的感覚でいうと、おかしいでしょ。凶悪犯罪を追っている特捜班が、ドミトリーのバックパッカーみたいに雑魚寝してる風景は日本的硬派警察小説にはありません。
 まあ、それはさておき、ストーリーがどうだったかというと、ちょっと複雑なんですよね。アルベルトの事件と過去に行動科学部の捜査が失敗した事件と、ミーラの過去の事件がある瞬間から交錯してしまいますから、ややこしくなるのです。おまけに刑務所の謎の囚人RK-357/9というのもいますし。
 ただ、連続殺人犯は幻覚・幻視型、ミッション型、快楽型などに分類されますが、サブリミナル型というのを全面に押し出したというのが、このサスペンス小説のミソであり、それが感覚的に真新しかったために世界中で売れているのだと思います。ラストのオチは、ミーラの過去の事件も黒幕である「☆☆☆」の仕業だったということですが、だとすると、起こった猟奇事件のどれほどにこの男が絡んでいたかと考えると、とてつもなく恐ろしいですよね。ひょっとすると、世の中の悪意の大部分はこの男が創りだした幻想であるかもしれないじゃないですか。
 続編あるなら楽しみですが、難しいだろうなあ。黒幕の男を完璧に書きすぎたかもしれませんね。


 
 
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