「幽談」京極夏彦

ちょっとキレがないというか、あんまり面白い本ではありませんね。
やはり怖い話にはオチがないとだめだなあ。
30ページ強の話が8篇ほど入っていますが、そのすべてにオチが見受けられません。
これはどうしてなんでしょう?
尻切れトンボというか、最後をあやふやにして、読み手を放ったらかしにしたまま終わってしまう、これが高尚な物語ならいざしらず、たかが作家の脳内自己満足怪談ごときで、詩的なその手法を使用する術があったのでしょうか。
なぜならこの話、結論はどうなのか言ってみろと作者に問うたところで答えはありませんよ、きっと。
だから面白くないんですね。結論があるのに結論を隠されているから物語は面白いんでしょう、はじめから結論を用意しておらず単純な話をわざわざ複雑にしといて読者を煙に巻いて怖がらせる、その性根たるや最低ですね。
もっとも、筆力は卓越しており、最後の話なんて作者の深遠な創造力を垣間見せただけに、それぞれの話は面白くなくとも、ページをめくるリズムはそれほど遅れず、それだけに惜しい、という気もしました。
あるいは私が合わなかっただけかな。

「手首を拾う」
7年前、妻と訪れた侘しい岬にある一軒宿。その宿から帰って3年後に私は家を出て、更にその1年後、正式に妻と離婚した。きっかけは耿耿(こうこう)と照らす月下の庭、枯山水の石積の下にあった。汽船に乗って再びその宿にただひとり訪れた私は、同じ部屋に泊まり、誘われるように月光が満ちた庭に降りた。
「ともだち」
小学校の頃、つまり30年以上前に住んでいた街。色が抜け、時間が止まってしまった街。自分が自分でいるためには、同じ時間に同じ場所に行って同じ時間に同じ場所に戻らなくちゃならないらしい。20年近く時間と場所に縛られている主人公は、かつてともだちと遊んでいたこの街で異世界に踏み込む。
「下の人」
ベッドの下から聞こえる音。ベッドの下に何かいる。それは人だった。ベッドと床のわずか十数センチの隙間に、歪んで大きくてやわらかな人の顔があった。都市伝説ベッドの下の殺人鬼のアレンジ。
「成人」
成れねえ、ってのは何でしょう?「奇妙な箱」の作者がA君宅で見た缶の中身は、死産の跡でしょうか。
とすると、A君は本来なら双子だった?雛祭りは元々、呪術的な意味合いの風習であったと聞いています。
「逃げよう」
変なものに追いかけられて逃げた。校門の横の泥溝から湧いた、翠色でわりと大きくて以外に速い、がむがむがむと意味の解らない言葉で啼く、とても厭なもの。追い掛けっれたまま、おばあちゃんの家という異世界へ。
「十万年」
十万年に一回起きる自然現象は観測できない。一方で、時間の流れとは主観的なものであり、僕の一秒と他人の一秒は違う。美紗が見た空を泳ぐ魚とは何か?十万年に一回見えるものは、人によって違うかもしれない。
「知らないこと」
隣家の50前の親爺が、門柱の上に気をつけしてずっと立っていたり、庭で脱糞したりしている。その親爺を半年間観察し続けている兄の話を聴きながら、大学のレポートを仕上げていた私の記憶は突如暗転する。
この話は本作を如実に表しています。ただややこしくして読者を煙に巻いてるだけ。答えはありません。
「こわいもの」
作者の概念が非常に面白く感じられる一品。壁は概念として面である。壁と床は交差することで線を作る。線とは、面と面とが接することで生まれる概念に過ぎないのだから、実際には存在しない。その線と線とが交わって作る点にも、質量はない、という話から、彼岸と此岸は共存しているというところに飛躍していくのが面白い。完全な闇の世界よりも完全な光の世界が余程おそろしいというのもその通りかも。幽霊に恐怖を感じるのは何故か、人間は何に恐怖を感じるのか、という作者の黙考の結果も共感できます。
ただ、ラストだけが残念。箱の中身は何かわからないのは納得できるし、そこに“答え”はありえないという話なのですが、だったらそういう話にはじめからするなよ書くなよ、と云いたいですね。
わからないから怖い、けど開けてしまったのなら怖くない。なら、ラストは開けるべきではなかった、ということになりませんか。だって本作のテーマは幽談というタイトルが真実なら“怖い話”に間違いないんですから。


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