「東京プリズン」赤坂真理

今年一番読みにくかった本でした。こいでもこいでも進みません。難解でした。
しかし、風呂で、トイレで、あるいはジョギングしながら、知らぬ間に考えていたのはこの本のことでした。
マリ・アカサカという作者と同じ名前の主人公は、彼女自身なのでしょうか。
作者自身が実体験した事柄にフィクションの肉付けをしているのだと思いますが、マリがアメリカでハンティングしたヘラジカがヘヴィローテーションのように何度も何度も出てくる様子や、ベトナムの結合双生児がふとした拍子に目の前に現れたりする幻視幻聴は、いかにも思春期の統合失調症そのものじゃないかと思いました。もちろん違うんでしょうけどね、読みながら変な感じがずっとしてましたよ。それで意味がわからなくなって挫折する人がたくさんいると思います。
それがどうやって“天皇の戦争責任”の話に結びついていくのか、ラストまで頑張って読むと報われるんですけどね。
少なくともラストのディベートで天皇の戦争責任と日本の国の真実の歴史について、マリが、いやマリを通訳として語られたことは私としては納得できるものでした。少し突っ込みたいところはありますけど、これ以上のものは読んだことがありませんし、聞いたこともありません。

2010年、45歳になった主人公(マリ・アカサカ)は下手な小説を書いて生きている。
彼女の実家の家業は、バブル前駆期からはじまった円高で息の根を止められ、バブルのピークに長年住んだ家を抵当で失った。今、80歳の母が住んでいる家は東京の最果てで電車とバスを使って2時間かかる。
夢の中で、マリはかつての懐かしい高円寺の旧宅におり、鳴っている電話をとった。相手は15歳の自分だった。
1980年10月10日、15歳のマリはアメリカ東部最北端のメイン州の片田舎にいた。中学を出てブラブラしていた彼女は、結婚前にアメリカ大使館に勤めていた母によって国外に出されたのだ。何かのために。
1学年上の高校生が当たり前に車を運転し、しかも銃を撃ってハンティングするという、日本とはまったく異質の文化を体験していた。ハロウィンを過ぎ11月に16歳になった彼女は、教師からある提案を受ける。それは、単位取得の代わりに、来年の4月、日本について全校生徒の前で発表するというものだった。
進級か、計2学年遅れとなる留年かを決定するそのディベートの議題は「日本の天皇には第二次世界大戦の戦争責任がある」。これを突かれると思考停止してしまう日本人のツボ。学校の社会の時間は、卑弥呼からはじまって日本の近現代史になると時間切れになるようなカリキュラムに出来ている。第二次世界大戦の後始末としての東京裁判(極東国際軍事裁判)、天皇の戦争責任は、ずっと日本人が目を逸らして向き合ってこなかった事柄なのだ。
マリは思う。日本人は漂白の民ではないだろうか。故郷と自分の心身を切り離した民なのではないだろうか。日本人はなぜ昨日まで敵であったアメリカをこんなにもころっと愛することができたのか。アメリカという異文化の中でアメリカのやり方を貫くホストファミリーのもと、いささか居心地の悪い暮らしをしていると尚更そう思った。
私の国には秘密がある。私の国では大人たちは何かを隠して生きている。
そしてマリの家にも隠されたものがあった。語ろうとしないが、母は東京裁判で通訳をしていたのだ。
16歳のマリが臨んだ東京裁判。そこで彼女の語る“天皇”“日本”“戦争”“宇宙”は日本人の心を震わせる。

確かに、社会の時間では時間切れだったような気がしますわ。教えようがないですよね。
自分たちの過ちを見たくないあまりに、他人の過ちにまで目をつぶってしまったことこそ日本の負けだったと。
日本は戦争に負けたが、勝ったアメリカも酷いことをずいぶんしたのだ、ということを作者は云っています。
過ちとは天皇の戦争責任ではありません。この作品のすごいところは、天皇という日本の象徴の描き方です。
私は人ではない、私は鏡である。なんて、なるほどと思いましたし、素粒子まで動員してましたね。
本作はあらゆるところに戦争を忘れたふりをして現実逃避している日本人へのメタファーが現れます。
森の大君は天皇ではありません、万物の摂理というか宇宙ですね。神は宇宙を創造したのではない、神が自分を表現したのが宇宙であるという一節は迫力がありました。マリが母にアメリカにやられた理由は、真実を見つめさせるには外に出すしかない、外でこそ日本と世界の本来の姿がわかるのだ、ということだったんじゃないでしょうか。
日本では、つねに何かが隠されていますから。
私は、昭和20年を境に天と地が逆転した日本人がそれから生きていく上において何かに目を瞑ったのは仕方ないことだと思いますよ。勝った方は価値観を押し付けるのは当たり前です。それまでの日本の価値観は破壊されました。そのことについて深く突き詰めるのは酷でしょう。もう済んでしまったことですしね。済んだことは仕方ないんですよ。だけど、ラストで作者が書いたことは間違いじゃないです。だから、それを知りながら生きていくことが大事なんだと思います。後の日本人に伝える物語、それは知っていなきゃ繋げていくことができません。




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