「スリジエセンター1991」海堂尊

「命よりカネを優先させるという天城先生のポリシーは、医師として絶対に容認できません。ですので、全力でスリジエセンター創設を阻んでみせます」
「堂々たる宣戦布告だな。常在戦場、受けて立つさ」


いやあ、半ばシリーズを読んできた義務感だけの惰性で読み始めたのですが、すごかったですね。
びっくりしました、桜宮サーガの残された時系列の空白に、こんなドラマが隠されていようとは……
やっぱり海堂尊は、大したもんでしたね。今まで散々こき下ろしてきてそんなこと言うのは失礼なんですが。
「ブッラクペアン1988」「ブレイズメス1990」(カテゴリー医療小説・ミステリー参照)に続く、『桜宮サーガ・エピソード・ゼロ』の最終作が、本作「スリジエセンター1991」です。
そして本作は、これまで作者が残してきた物語を派生させている親株みたいなものです。
先日読んだ「ケルベロスの肖像」も、本作を読むことで理解は深まります。どうして高階はあのとき後悔していたのだろう、とかね。AIセンターが爆破されたのだろうとか。他にも村雨はナニワ・モンスターへ、速水晃一はジェネラル・ルージュの伝説から極北へ、細かいところでは、極北シリーズに現れた世良雅志がバイクに乗って登場した意味とか、高階と藤原婦長が仲が良い理由とか、「ジェネラル・ルージュの凱旋」で速水が黒崎教授に会議で助けられたわけとか、彦根新吾がどうしてあんな変人になったのだろうとか、はては花房美和の恋の行方まで、本作には折に触れて思い出す海堂作品の思い出と由来が詰まっているといっても過言ではありません。
まだ海堂尊をまったく読んでいない方は、このシリーズから読んでみるのも手かもしれません。
ひょっとしたら、そっちのほうが楽しかったかもしれませんね。

さて、物語は前作から引き継いでいます。半年くらい経っているでしょうかね。
ダイレクト・アナストモーシス(直接吻合術)という、世界中を見回しても彼にしかできない世界最先端の心臓動脈バイパス術を駆使する、モンテカルロのエトワールこと、天城雪彦。彼が再来年、桜宮岬に創設しようとしている『スリジエ・ハートセンター』の意義は、静脈置換バイパス術以外の術式を実施できる施設がない日本の中で、、世界最高峰の唯我独尊的な技術であるダイレクト・アナストモーシスを桜宮で実施できることにありました。
彼の忠実な僕である世良は、東城大学医学部総合外科学教室、通称佐伯外科3年目の若年外科医です。
彼は、佐伯外科の医局員にして、天城総帥のスリジエセンター構成員、さらに黒崎助教授の心血管グループの客員医員でありながら専門は高階率いる腹部外科であるという、大変な立場に置かれています。そして、彼はこの上にサッカー部の先輩である垣谷がしていた医局長という雑用の親玉みたいな職務も仰せ付けられるのです。
まあ、人がいいんですな。こんな奴はどこにでもいますが、だいたい貧乏くじを引く運命にあります。
そして、天城と世良の目指すスリジエセンターですが、すんなりとはいきません。敵が多いのです。
佐伯外科のクイーンこと帝華大の阿修羅・高階権太とビショップ・黒崎助教授の頑強な抵抗に遭うのです。
特に高階でしょうね。「ケルベロスの肖像」を踏まえた上で本作を読んで感じた私の高階の心境の変化は、最初は天城という価値観が全く異なる人格への嫌悪でしたが、それがいつのまにか天才外科医の術技への嫉妬に置きかわり、最後には東城大医学部における自分の権力欲にまで変わっていったように見受けられます。
これは作者が意図して書いたことなのでしょうか。だから先程、海堂尊はやはり只者ではなかったと書いたのですね。白い巨塔における人間としての医師の生き方が非常に巧く書かれていたと思います。
天城対高階、あるいは黒崎も交えまして、この三すくみの状態に対して病院長であり総合外科を統率する佐伯清剛は、状態を楽しんでいるようなところもあります。しかし、至高の国手である佐伯教授は、このタイミングで東城大学医学部附属病院の大改革に乗り出すのです。それは、本来なら教授連の力の源泉であった医局員の人事権や、教室費の分配を奪うものでした。さらにVIP用の特別室も病院長の下に一手に掌握しようとしました。
あまりの大きな変革です。そして凡人である黒崎の凡人にしか出来ない不器用な忠誠運動によって、佐伯外科の正道を外されそうになった高階は、天城のスリジエセンター打倒と、佐伯病院長の再選阻止という一石二鳥とでもいうべき大勝負に挑むため、ある人間とタッグを組むのです。
勝者は誰なのか。そもそも勝者はいるのか。スリジエセンターは蜃気楼の城なのか。
あまりにも劇的で悲しい結末が待つ、桜宮サーガの原点、ここに完結。

これが最後でないなら、アフリカに行ったという噂の、オペ室の悪魔こと渡海征司郎の物語が読みたいです。
あるいは、佐伯外科の前身である真行寺外科の三羽烏、佐伯清剛、桜宮厳雄、鏡博之による、「桜宮エピソード・ゼロ・そのまたゼロ」も面白いかもしれません。
いずれにしても、よくここまで話が繋がりました☆読んできたかいがありましたよ。




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この記事へのコメント

- 藍色 - 2014年05月07日 12:37:53

一連のシリーズの原点がここに集約されている感じで、寝る間を惜しんで読みました。
最後はちょっとせつなかったです。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

Re - 焼酎太郎 - 2014年05月07日 20:38:52

そうですね、エピソード・ゼロみたいな感じで。
そっちの世界のほうが面白いかもしれません。佐伯教室の前でしょ。
もうこっちの桜宮サーガは現在も未来もごちゃごちゃですからね。

コメントありがとうございました☆

トラックバック

粋な提案 - 2014年05月07日 12:05

「スリジエセンター1991」海堂尊

天才外科医による「革命」の行方は? “招かれざる異端児”を襲うアクシデントと張り巡らされた陰謀――。 メディカル・エンターテインメントの真骨頂! シリーズ、ついに完結!! 手術を受けたいなら全財産の半分を差し出せと放言する天才外科医・天城は、東城大学医学部でのスリジエ・ハートセンター設立資金捻出のため、ウエスギ・モーターズ会長の公開手術を目論む。だが、佐伯教授の急進的な病院改革を危惧...

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