「重力とは何か」大栗博司

IPMU(東大数物連携宇宙研究機構)がいつのまにかカブリIPMUという名称になっており、カブリというのはいったい何だろうと思って調べてみると、どうやらアメリカの財団の名前のようであり、そこから研究資金の寄付を受けるようになったらしいです。要はネーミングライツですね、味の素スタジアムやポカリスエットスタジアムみたいなもんでしょ。
カブリと冠される研究施設は他にも世界で15拠点あり、スタンフォード大学やMIT、コロンビア大学、ハーバード大学、北京大学の宇宙物理学研究所など、そうそうたる名門が揃っていますから、IPMUにとっても名誉なことですね。
そして、本書の著者である大栗博司氏は、カブリIPMUの主任研究員であり、カリフォルニア工科大学のカブリ冠教授でもあります。なんと、教授職にまでカブリが付いているのです。
あとがきによれば、毎年3ヶ月、日本に滞在して氏の専門である超弦理論(超ひも理論)を中心とする物理学や数学の研究に勤しんでおられるようです。

で、本書の内容はというと、これがまた非常に素晴らしいものでした。まず、序文からしてすごかったです。
無駄なことこそ人生の極意ですよ。私なんて物理は哲学や宗教であると思ってますから。
こういった新書での物理学入門としては、本書が一番わかりやすく、面白いかもしれませんね。
テーマは重力理論なんですが、もちろんニュートンから始まってアインシュタイン、量子力学、ブラックホール、そして超弦理論、マルチバース、人間原理と一般人を対象にした初歩的物理学本のお決まりのパターンを踏襲しています。そして、私の個人的な感想では、そのどれもの説明が他の本に比べて格段にわかりやすく解説されているのです。
アインシュタインの特殊相対性理論が応用されている例として、よくカーナビの話が物理の本に載っているのですが、私は本書を読んで初めてその仕組みが理解できました。それまでは、読んでわかったふりをしていました。
また、光電効果の説明に、刑務所の囚人と保釈金でたとえて解説しているのですが、これも新機軸でしょうね(笑)
本当によく、私みたいな酒ばかり飲んで何の芸もない輩にも理解できるように工夫されています。
タイトルは「重力とは何か」なので専門的な狭い内容を思い浮かべがちですが、物理の入門書にもってこいの本でした。

この世界はいったいどのように成り立っているのか――いわば、私たちの存在の根源に関する問題に答えるのが物理学の使命です。そのなかで、重力の謎は宇宙そのものの謎と深くつながっています。
私が読んで関心した重力の謎のひとつは、それが非常に弱いこと。私たち人間の体は分子でできていますが、それは電磁気力でつなぎとめられており、仮に重力が電磁気力より強かったとすると、机に頬杖をついた場合、ひじが机を通り抜けてガクンと下に落ちてしまいます。重力が弱いからこそ、人間は生活できるのです。
そして、重力は遮ることができません。これ、当たり前なんですが、読んでみて私はガツンとショックをうけました。なんで、重力は遮ることができないのか?離れていても作用するのか?不思議ですよね。
物体があると時間や空間が変化し、その時間や空間の変化が物体の運動に影響を与える、つまり重力の正体は時空の歪み(性質の変化)である、とアインシュタインは考えました。
しかし、重力の働きを説明する理論は現在も未完成なままです。ただ、本書を読めば重力というものへの考え方がわかります。これが重要なのですよ。後半へ進んで超弦理論やホーキング放射になるとさすがにわかりにくくなりますが、現在の物理学は多次元世界から私たちの住んでいる3次元世界を見ているという見解で間違いないと思います。私たちにとって4次元を考えるより低次元である2次元を見たほうがはるかにわかりやすいのと同じで、重力や相対論へも角度を変えた見方をすることで自分なりに考えられ、非常にわかりやすくなります。
本書はそのきっかけを与えてくれるだけの力はありますよ。
また、神岡鉱山に建設が予定されている重力波望遠鏡「KAGRA」に関する記事や、CERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)の説明、放射線障害のメカニズム(波長の短い電磁波は人間のDNAの分子結合を断ち切る)、はてはこの間の、超高速ニュートリノ事件まで、最新の話題にも事欠きません。
何回と繰り返して読んでみたい、そう思わせてくれる本でした。





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