「百年文庫 本」島木健作・ユザンヌ・佐藤春夫

ポプラ社百年文庫№14のテーマは『本』です。
本。収録されている3篇の作品を読むかぎり、あくまでも対象は「本」であって中身の物語ではありません。
なにかしら本にまつわる物語なのですが、とりわけ2作目のユザンヌの話は強烈でしたよ
私のような活字中毒者というのがいますが、本自体の中毒者というか変質的愛書家というのもいるんですねえ。
いわれてみれば本というのは装丁もそれぞれで美しく、個性があって、希少な古本ともなれば財産になりますし。
そういえば、根がケダモノながらも甘にできている西村賢太先生も古本の収集家でしたね。
ほとんど美術品を扱うような感覚なんだろうなあ。私にはいまいちその傾向がわかりませんが、それにしても、「本」とは面白いテーマであったと思いますよ。
そして№が10を超えたあたりから、選ばれている作品の質が変わったような感じがします。よくなったように思います。ひょっとしたら10冊ごとに選者が違うのかもしれませんね。

「煙」島木健作(1903~1945)
 これは作者自身の体験がもとなんでしょうね。若くして人生の途上に重大な蹉跌を経験してきた主人公の耕吉。学問もなく腕におぼえもなく労働する肉体の力もない彼は、「おれはどうやって生きていったらいいのだろう」と自問しながら、おじの古本屋で働いています。彼は生きていくことに不器用なんですね。仕事もうまくこなせるタイプではない。古本の競市では重大なミスを犯しました。はっきりいってドジです。そんな彼が「生きていけるだけでありがたいのだ」と自分のこれまでの人生を吹っ切って諦めながら市井で泳いでいく、それは共産党に入党し投獄され、のちに転向した作者の人生そのものだったかもしれません。

「シジスモンの遺産」ユザンヌ(1852~1931)
 コメディタッチなんですが、登場人物はみんな必死なんですよね(笑)1894年の作品です。
名にし負う愛書家のラウール・ギュマール氏とそのライバル、ジュール・シジスモンは幾度となく希少本、たとえば揺藍期本(1500年以前に活字印刷された本)や初版本、フランソワ1世やマザランの紋章が皮表紙に印された天下唯一本などをしのぎを削って奪い合ってきました。ところがライバルのシジスモンが亡くなるのです。膨大な量の蔵書を残して。さてそうなると、ギュマールはシジスモンの残した蔵書が欲しくてたまらない。しかし、なんとシジスモンは先を見越してたかのように遺言で蔵書の譲渡を禁じていたのでした。それを聞いて腹を立てながらも何とかしたいギュマールは、シジスモンの遺産を相続したエレオノールなる58歳の女性に求婚することを策謀するのですが……書物狂いだったシジスモンへのあてつけのためエレオノールは書物庫に仕掛けをしていたのです。
面白かったです。最後のほうはほぼ新喜劇でしたね。

「帰去来」佐藤春夫(1892~1964)
 語り手である詩人のもとに、同郷で文学志望の17歳の少年(いや1933年の作品だし青年か)がたずねてきます。面倒くさいながらも故郷の和歌山熊野の名産など出され、懐かしさにほだされて応対するうちだんだんとこの青年が好きになってくるのです。文学がだめなら何か商売でもということで、語り手が紹介したのが古本屋。語り手のなじみである古本屋の親父のもとで青年は修行を始めるのですが……半年になろうとするころ、語り手の家にやってきた青年は故郷への帰国を決めたというのでした。そのわけは?
漁樵問答とは、漁師ときこりの話、かみ合わない話という意味があるようですが、どうだろう、ここでは都会と田舎にかけたのかな。古本屋の主人と出版社の社員の話を聞いているうちに、青年は気が滅入ってしまったのですね。ああもう東京いやだ、田舎に帰ろうと。そして田舎に帰ったら漁樵問答というタイトルで何か書き現してみたいと青年は語り手である詩人に言ったのですが、これがラストでオチに使われて笑われたのでしょうね。
ま、なんとはない話です。
作者も和歌山出身の人なのでほぼ実話に近いはなしかと思いましたが、ほぼ空想だそうで。さすが佐藤春夫。





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