「私のいない高校」青木淳悟

首都圏にある国際ローゼン学園普通科2年菊組41人の1997年の1学期を綴ったアルバムです。
視点(支点)は主に担任である藤村雄幸先生、動点は学期始めにカナダから留学してきたブラジル系カナダ人のナタリー・サンバートン17歳を中心にクラス全41名他教員他彼女に関わる人々、アルバムのメインの材料は5月の連休明けの中国九州方面への修学旅行です。

主人公のいない小説と云われています。「私」とは誰なのか、どの「私」がいないのかと。
読みはじめから、菊組の生徒の登場の仕方が気になり、名前が出てくるたびにメモを取っていたのですが、偶然に巻末にすべての人名が登場順に記されていることに気付き、バカらしくなってやめました。
どうやらクラス41名全員の名前は出てこないようで、ファーストネームのみも含む36~37名くらいが登場したと思われます。これがたったひとりだけ名前が出てこないようだと気色悪いのですが、そんなことはない、ということで。
結局、どこからか事件が始まるのではないかと恐る恐る読んできたのですが、何も起こりませんでした。
留学生のナタリーはカナダ人というよりもブラジル人のために英語が不得意という驚くべき事実にみんなが当惑したり、教室で電子辞書をなくした子がいたり、土曜だけいつも休んでいる子がいたり、クラスを包むオーラがいびつになりそうな出来事が記されているのですが、それはただ記されているだけで中身は何もわかりません。
だから私は感想として、卒業アルバムを読んだみたいだ、と表現したいと思います。
卒業アルバムの写真てみんな笑ったり汗かいたりしてるその一瞬の表面を写しただけで、中身は何もわかりませんよね。本作は主人公がいないといっても主な語り手、視点は担任の先生であり、先生にとっては生徒などたかが3年間で通り過ぎる微かな存在なのではないか、だからこの作品に感情も心理描写もないのではないかと思いました。
だとしたら、これは小説作品ではありません。いったい何なのでしょう?
作者によるまったく違った試みの前衛的な文芸作品なのでしょうか。
巻末には、「この作品は、『アンネの日記 海外留学生受け入れ日誌』の内容に多くを負っています。同書を一部参照しつつ、全体をフィクションとして改変・創作したものです」と書かれています。
だから元ネタはノンフィクションだったのですね。それを読んで作者に何かひらめきがあったのでしょう。
中心点がない物語を書いてみたらどうなるだろうと思ったのかもしれません。教師が感情的でなく事務的に仕事を進めた場合、それは笑顔ではなく笑った顔が貼られたアルバムを作るようなものだと気付いたのかもしれません。
そして先生なんてそんなもんでしょ。仕事なんだから。
生徒だってあっという間に社会人ですから。ナタリーをケアする学園OGの日系ブラジル人や藤村先生と机を並べる教師がかつての教え子なんていうエピソードも、そのあたりを考慮する材料だったのかもしれません。
アルバムなんて開かなきゃ重しにもならないけど、開いてみてもそこには現在はありませんからね。
「私」のいない高校。「私」とはかつてアルバムに笑った顔が貼られた私でありあなたのことなんでしょう。
そして、誰ももうそこにはいなんです。





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管理人のみ閲覧できます - - 2012年08月14日 17:36:14

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