「世界サイバー戦争」リチャード・クラーク+ロバート・ネイク

本書で云う「サイバー戦争」とは、損害や混乱をもたらす目的で国家が別の国家のコンピューター、もしくはコンピューターネットワークに侵入する行為のことです。
何ができるかというと、石油やガスのパイプライン破壊、発電システム故障、列車脱線、飛行機同士の衝突、人工衛星の軌道を外して宇宙の彼方へ放り出したり……
また通常戦争の支援としても使用されます。実際にあった例では、2007年9月に北朝鮮の協力によりシリアが核兵器施設を秘かに建造していたところ、イスラエルの攻撃機が木っ端微塵に攻撃した一件がありましたが、このときイスラエルはサイバー攻撃によりシリアの防空システムを無効化していました。シリアの防空軍は、イスラエルの攻撃機が自国の国境を突破したことに気づかずにいたのです。
そしてイラク戦争では、アメリカ軍はイラクのインターネットを乗っ取り、イラク軍の将校に降伏するようメールを送っていました。これは、従来のビラまきのかわりに敵をかく乱し士気を低下させるサイバー・プロパガンダです。

著者のリチャード・クラークは4人の大統領のもとでアメリカの安全保障に従事していた超大物であり、ホワイトハウスの奥の院にいた人物の言う事なのでさすがに説得力があります。ただ、前半からサイバー戦争に対する恐怖を身に染みて感じさせてくれるですが、それがインターネットの技術的な説明になったあたりからだんだんと理解しにくくなってきます。私のようなサイバー音痴はどうして閉じられたネットワークが外部からの攻撃を受けるのかどうしてもわかりませんねえ。そこをもっとわかりやすく書いてくれたらよかったのですが、保安的に書けないことも多かったのでしょう。
そして本書はあくまでもアメリカを主題に書かれたものであり、日本に関してのことは第二次世界大戦での暗号戦のことくらいしか出てきません。著者によるアメリカのサイバー防御への提言、これが本書の主旨です。

では、著者がアメリカのサイバー防御を問題にするのはなぜなのでしょう?
インターネットを発明(財政的支援)したのはそもそもアメリカの国防総省であり、インターネットが戦闘に利用される可能性は初期の段階から認識されていました。しかし、当初たった60台のパソコンネットワークからスタートしたものが世界の数十億人が利用するものになろうとは想定されていませんでした。
他国をサイバー攻撃する力においては、アメリカはトップクラスです。次に僅差でロシア、その次に中国とフランスが続き、すでに世界ではイラン、北朝鮮、韓国、台湾、インド、パキスタン、オーストラリアなど20~30カ国がサイバー部隊を創設しています。たとえば中国国内に潜伏する北朝鮮のサイバー部隊は小学校レベルのときから選抜され特殊教育を受けた優秀な600~1000名のサイバー戦闘員で組織されています。精強です。
しかし、逆に北朝鮮には他国からサイバー攻撃されるだけの、サイバーインフラがありません。
つまり兵器による通常攻撃と違ってサイバー戦争は非対称であり、二国間にギャップがあるのです。アメリカと北朝鮮の間にサイバー戦争が勃発した場合、どう見てもアメリカ側の被害が大きくなるのは確実です。
アメリカは、サイバー空間に多くを依存しすぎているのです。そして、その仕組みが著者の苦悩であるのです。
著者のいうサイバー戦争という舞台におけるアメリカの問題点は、
①現在のところアメリカは、コンピューター・ネットワークを利用したシステムに潜在敵国よりもはるかに依存している。
②国にとって不可欠なシステムがアメリカ以上に民間企業によって所有され、運営されている国はない。
③インフラの民間所有者や運営者が政治的に力を持ち、ロビー活動や選挙献金によって運営に対する政府の規則を頻繁に阻み、弱めてしまう国は主要先進国ではアメリカだけである。
④アメリカ軍はサイバー攻撃にきわめて脆弱である。情報システムへの依存度が高い。

つまり、アメリカは便利に頼りすぎたということです。人の代わりにコンピュータがシステムを制御している割合が大きすぎるのでしょう。そして国と一緒になってサイバーセキュリティに危機感を抱いてもらわねば困る民間業者は言うことを聞きません。だいたい、莫大な政治献金をしているので政治家もその顔色を見ているため政府から強硬的なことが出来ないのです。さらに軍隊はもっとコンピュータに依存しておりサイバー攻撃を受けるとバラバラになってしまう。
日本のクソ政治となにかと比較されるアメリカですが、けっこう困った問題を多く抱えているようです。

中国がアメリカの軍備に追いつくには数十年かかるといわれていますが、サイバー戦争の戦術を使えれば、充分な進化を遂げた近代的な新生中国軍は、中国のサイバー攻撃でハンデを負った米軍と五分の戦いが出来るようになります。著者も参加したアメリカと中国の二国間を想定した模擬サイバー戦では、中国が勝ったそうです。
アメリカが負けるなら、極東の某島国はサイバー空間において簡単に蹂躙されることでしょうね。




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