「道化師の蝶」円城塔

第146回(2012年前期)芥川賞受賞作『道化師の蝶』を読みました。
カップリングとして同じく群像に発表された「松ノ枝の記」も併録されています。どっちもややこしい話……
作者の円城塔(えんじょうとう)は東北大学物理学科卒業ということですが、なるほど『道化師の蝶』は物理学の観点から読んでみるのも面白いんじゃないでしょうか。
たとえば、エイブラムズが補虫網を振り回して着想を捕まえるのは、粒子加速器で発生する素粒子を捕捉することに似ているような気がしますし、銀糸とか手芸というキーワードは物理のひも理論を想起させますし、大型旅客機の中で着想が速度より遅れて浮遊するなんていう発想はアインシュタインの特殊相対性理論かもしれませんよ。
また、冒頭のエイブラムズや友幸友幸、蝶の性別が後半で逆転するのは素粒子の電荷あるいは物質反物質を比喩しているのかもしれません。
でも結局2回ほど(2回目はパラパラと)読んだのですが、1回目は真相はともかくこの小説を執筆した発想は多次元的で時間を超越した構成といい物理学からきていると確信していましたが、2回目読んでみるとどうも哲学的な印象も強まったような感じがしてよくわかりません。
結局、私には肝心の“道化師の蝶”が何であるのかわかりません。各章のナレーターについては、
Ⅰ 友幸友幸の書いた「猫の下で読むに限る」をⅡのエージェントが翻訳したもの
Ⅱ A・A・エイブラムズ私設記念館のエージェント
Ⅲ 友幸友幸
Ⅳ A・A・エイブラムズ私設記念館のエージェント
Ⅴ 友幸友幸=ラストで蝶に変わる
であると思うのですが、エイブラムズは友幸友幸と同一人物の可能性もあります。
A・Aは友幸友幸と同じようにアルレキヌス・アルレキヌスという反復された名前ですし。
死んだ言語の支配する地というのもわかるようでわからない概念だなあ。なんとなく村上春樹のあれなんだっけ、計算士と記号士の物語、ハードボイルドワンダーランド?でしたか?あれを思い出しました。言語と記号。
座標というか自分の今存在している空間軸、時間軸をずらした物語ですよね。どこにいるのかわからない。
でも結局、私は蝶が何なのかわかりません。考えれば考えるほどわからない。ヒッグス粒子じゃないよね?
だから私にはこの物語の一番肝心なところが理解できていない、ということです。難しかったですね。

「松の枝ノ記」、これがまたよくわからない(笑)ただ、この物語すべてが彼らの第5作目の作品であるような気がしますけど。途中、島に来てから屋敷に入ったところでふたつの話がだぶってますよね。
互いの言語に関する造詣も浅いまま互いに互いの作品の翻訳者となった二人。やがてトラブルになります。
そして一方の男が、相手方である「松ノ枝」が住んでいるロアノーク島までやってくるのですが、待っていたのは姉だという女性でした。そして、ミステリアスでファンタジックでありながら複雑で面白みに欠ける話が展開されるのです。
人類はアフリカから出発してシルクロード、シベリア、アリューシャンを経て北米、南米に至る壮大な旅をしており、ホモ・サピエンスというつまり我々新人とネアンデルタールという旧人が世界に共生していた時代があったことは事実であり、それを物語りに取り入れたのは印象的でよかったと思うのですが、この作家の癖なのかどうか章が変わると一挙に話がすり変わるので読んでいるほうは混乱してしまいます。また、わざとらしさも感じて痛いところがありますね。中間小説的にファンタジーに文学的要素を織り交ぜるのではなく、この作家頭がいいのはわかりますが、もっと一般人の視点まで降りてきていただいて普通のエンタメにしたほうがいいんではないでしょうか。
筆力はありますから退屈も窮屈もなく読めるのですが、中間小説をやるにはちょっと村上春樹のような文才はないと思います。私も2回目読んでみたらこの作品ももう少しはっきりするのかもしれませんが……
わかりにくい、ということは作品の文学的価値を高めることにはならないし作者も読者を理解できないということになると思いますけど。

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