「彼女は存在しない」浦賀和宏

最近、この10年前の本がじわじわ売れ出しているときいて読んでみました。
彼女は存在しない、というタイトルにも魅かれるものがありましたし。
が、実はこの『彼女は存在しない』というタイトルこそが、この複雑な物語をなおさらわかりにくくする元凶であったと思っています。
タイトルが頭にあるので、どうしても構えながら読んでしまうのですよ。
誰がいないんだろう?と思いながらね。
さらに、サイコものなので人間関係が虚実入り組んでおり非常にわかりにくいのと、文章がそれほど巧くないので読みにくいです。
アイディアは最高だったとおもうけどなぁ。
それに、ラストのフレーズである、――私は、存在しない。この一言はきっちりと締まっており、この理解しがたい物語を終わりまで読んできた頑張りの何十パーセントかは報われることでしょう。
私は存在しない。途中からわかりながらも改めてこの一言をラストで目にすると、かっこよかったですね。
わかりにくいのは、作者がミステリーをミスリードするために、ある人物を実在と架空に分けてしまったことです。
そこをもっと違った工夫で書いていれば、10年かかって10万部ではなくその3分の1の期間で売れていたと思います。

殺人も起こるのですが、これほどストーリーが核心に関係ない物語も珍しいかもしれません。
10年前という風俗の違いとやたらマニアックな音楽やらで、少し宙に浮いたようなふわふわした感じで読み進めました。貴治と香奈子の恋人同士に横浜駅前で出会った由子、貴治の友人である売れない小説家の浦田先生を合わせて4人のパートと、両親のいない大学生の根本有希とその妹で引きこもりの亜矢子、根本の恋人である恵の3人のパートが交互に展開していく構成となっているのですが、上記のうち誰かは存在していません。
主要な登場人物は7人いますが、実は物語の中で実在しているのは6人です。

実在している、実在していないというのは他人が決めることでしょうし、目に見えなかったら仕方ないですよね。
この物語の核心である解離性同一性障害、つまり二重人格という精神障害はよく映画や小説で目にしますが、実際に目にしたことはありません。症例の多くは虐待に苦しむ幼い子供がこれは自分の身に起こっていることではないと思い込むのが多重人格を形成する第一歩らしいです。自分の中に違う人格を生まざるをえないところまで追い込まれるのですね。そして違う人格になっている間の記憶がありません。また、フォールスメモリ(虚偽記憶)という実際には自分が体験していないことをさも本当のことみたいに記憶していたりします。
ただ、本作で少し残念なのはこれほど症状が重くなっているのに、いくら引きこもりで家族とも距離を置いているとはいえ専門の病院に連れて行くくらいに唯一の兄が気がつかないのはおかしいでしょ。それともそんな急に症状が進行するもんなんですかねえ。
こうやって感想を書きながらもどんどんおかしいところを思い出してくるのですが、でもやはりラストはよかったですね。ラストだけは。私は存在しない。実在していない人格がそう悟れるものなのでしょうか。幽霊が私は死んでいるって気付くみたいなもんですよね。


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