「百年文庫 響」ヴァーグナー/ホフマン/ダウスン

百年文庫13年目のテーマは『響』です。
交響曲、音楽を連想させるからか作者は3人とも外国人
しかも3人とも西洋人というのは今回が初です(№8の罪は魯迅だけ東洋人)。
正直、私とかは苦手なお題ですわ。聴きませんしオーケストラとか。ここにも登場してきますが、ヴァイオリンの名器といわれるストラディヴァリウスとかもうなめんとんのかと。響板をちょこっと斜めにずらしたら名器完成とも言いますしX線で精査してミクロ単位で同じものが出来るのではないのですか?できないの?
だったらタンバリンとかシンバルでも名器とか編み出してほしいですよね。マドラスとかね。弦楽器だけがくそ生意気にお高くとまってちゃ打楽器とかの立場がないでしょ。それは『祭』で『響』ではない?
だが、しかし。
本書に収められた3篇の音楽の物語を読んでみると、確かに音律の霊を楽器に呼び寄せる、奏者と楽器が互いに響きあうような感動が実在するんだろうなあ、と思います。たとえ音楽はわからなくても、本書に収められた物語は上手に音響を言語に翻訳してくれています。けっこう面白かったと思いますよ。

「ベートーヴェンまいり」ヴァーグナー(1813~1883)
 ワーグナーで聞き覚えのある19世紀ドイツを代表する作曲家、指揮者です。彼は1839年から3年間、不遇の時代をパリで過ごしていたようですが、そのとき3作だけ小説を書いていました。本作はそのうちの1編であり、1940年の作品です。実は生前に作者は会ったことがなかった大音楽家ベートーヴェンにライプチヒからウィーンまで巡礼しながら貧乏な音楽家が会いにいくという創作の私小説となっていますが、これ本当に面白いです。ヴァーグナーやるなあ。声楽と器楽の融合なんて人間とアニミズムの説明を加えながら音楽というものの本質をベートーヴェンの口を借りて言っていたように思いますし、素人の私もなるほどなぁと感心しました。当時浮かばれなかった自分のことを客観的に見ていてシニカルなユーモアも交えられえていますし、この人面白いおっさんだったんだろうなあと。曲だけでなく小説も残してくれていたら本人への理解は相当深まりますよね。

「クレスペル顧問官」ホフマン(1776~1822)
 顧問官とは公爵とか偉い人に付いている法律や外交の専門家のことをいうのだと思います。
学生の私(語り手)が滞在したドイツのH町で出会ったクレスペル顧問官は有能ですが、変人でした。
ヴァイオリンの製作も一流であり音楽家であった彼の家に住み着いていた謎の歌姫アントニエ。
そして彼女と響きあう名器のヴァイオリン。私は何度もクレスペルの宅を訪問しますがついぞ彼女の歌声を聴くことはありませんでした。二年後、官途について法律家になった私は旅行で再度H町を訪れるのですが……

「エゴイストの回想」ダウスン(1867~1900)
 社交界に知らぬ人なき音楽家アントニオ・アントネルリ男爵の過去は、パリで手回しオルガンの流しで生計を立てていたニネットという浮浪少女に救われたようなものでした。彼はニネットとままごと所帯をもってヴァイオリンを奏でて小銭を求め路上をとぼとぼと歩いていました。そして、ある貴婦人に音楽の才能を認められ一気に人生を引き上げられたのは彼だけで、ニネットは孤児院に預けられ二人は二度と会うことはありませんでした。
しかし、今、窓の下から聴こえてくるうらぶれた手回しオルガンの音色が彼にある回想をさせることになったのです。
この物語、そのままではむしろロマンチストなのですが、何がエゴイストなのかというと、窓の下の手回しオルガンの奏者がひょっとしたらニネットなのではないかとあらぬ想像をしつつそれを確かめなかったことなんだと思います。ありえない、もう30年近く経っているじゃないか、とはいえ物語の中でニネットが孤児院を脱走したことにも触れられていますし、男爵はオルガン奏者がフランス人の女性である(男爵が今居るのはイギリス)と断言しています。
それでもニネットのわけがない、でもそのわずかな確率さえ捨ててオルガン奏者を確認せず彼は葉巻を吸った。
本当は逢いたくて仕方なかったのに。エゴイストとは行動の“結果”なんですよ。ロマンチストの裏側です。
ニネットでないのが怖かった、ニネットが年を取っているのが怖かった、そして彼は彼だけの安心を取りました。


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