「少女は卒業しない」朝井リョウ

平成生まれの直木賞候補、朝井リョウを初めて読みました。
あるところに“男綿矢”(綿矢りさの男版)と書かれていたのを読んで爆笑してしまいましたが、まだまだというか、綿矢りさの域には男で到達するのは大変でしょう。男女の性がニュートラルになってきているとはいえ、青春小説の深層性において男の分際ではとてもとても綿矢や辻村深月に近づけるとは思えません。勝てるとしたらユーモア性でしょうかねえ。本作も笑えるところがありました。そういうのは男性の方が小説が軽いので書きやすいでしょうね。

本作はいずれも『小説すばる』に掲載された7篇の連作学園小説で構成されています。
テーマは「卒業」。舞台となっている高校の卒業式は3月25日。なんでこんなに遅いかというと、この高校、合併で廃校になることが決まっており、卒業式の次の日からもう解体工事が始まるのです。卒業生にとってはもちろん在校生にとっても3月25日の卒業式の日が、この学校との別れになるのです。
卒業式前の図書室から次の日の夜明けまで、告白あり別れありミステリーありの7つの学園ドラマの行く末は……

「エンドロールが始まる」作田にとっては卒業式の日は先生に借りた本を返却する日。そしてそれは1年前の図書室で好きになってしまった27歳の既婚の先生との最後の思い出の日。「好きでした先生」。過去形でなければ伝えられない思い。自分で小さくピリオドを打ち込んだあとでないと伝えられないその気持ち。“終わり”の物語の幕開けに相応しい切なく優しいストーリー。
「屋上は青」幽霊が出るという噂の東棟の屋上。尚樹と孝子は幼馴染。芸能事務所に所属し学業と両立できず退学した尚樹と中学校の英語の先生を夢見る孝子は屋上で空を見上げたまま卒業式の始まるチャイムを聴く。
「在校生代表」ザビエルというニックネームの人間はどこの学校にもいたんだろうなあ。生徒会でバスケ部の岡田亜弓による特別な在校生送辞がそのままの物語。内容はともかくこれだけ長い送辞は絶対に嫌われるよ?去年の卒業ライブで照明係をしていた生徒会長田所啓一郎の涙のわけは?
「寺田の足の甲はキャベツ」女バスの後藤部長と男バスの寺田賢介は高2の3月から付き合っている。寺田のキャベツみたいな足の甲と後藤のレタスみたいな足の甲。東京に憧れ都内の大学に進む後藤と予備校に通い地元の国立大学を目指す寺田。前の日、悩んで目の下にクマをつくった後藤は寺田の背中に「別れよ」と言う。季節はずれの花火、さよならの春。きっと言い出した後藤は寺田の百倍辛いだろう。がんばれ賢介、どっちかが都会に出る遠距離恋愛は90パーセント無理だ。泣いて吹っ切れろ。
「四拍子をもう一度」明日には取り壊されてしまう校舎の中での最後の卒業ライブで思わぬハプニングがなんとライブのトリをつとめる学内の人気ヴィジュアル系バンド『ヘブンズドア』のステージ衣装とメイク道具が控え室からなくなってしまったのです。犯人はいったい誰なのか!?軽音部元部長、神田杏子の隠したかったこととは何か?「ほんとのこと言うと、最後に私がもう一回聴きたかっただけかな」。奇蹟の歌声が奏でるミステリー。
「ふたりの背景」高原あすかは帰国子女。ひょんなことからクラスでシカトされ、美術部がやすらぎの場。美術部にはこの学校の養護クラスの生徒である楠木正道がいた。そして美術部で卒業するのはあすかと楠木の2人だけ。その前で告白するとうまくいくといわれる東棟の裏面の壁画、男と女が向き合っているシルエットの手の部分を描いたのは楠木だった。向き合いながらすれ違うシルエット。再び彼らのシルエットがその人生において重なるときはくるのか。
「夜明けの中心」卒業式の日の深夜、学校に忍び込んだまなみ。驚くべきことに教室で剣道部の香川と出会う。ふたりはどうして深夜の学校に来てしまったのか?それは5月に転落事故で亡くなった駿に会うため。まなみと駿は高1の12月から付き合っていた。香川と駿は剣道部のライバルだった。
かつて彼が笑っていた調理室(料理部部長のまなみと二人で弁当を食べていた)を中心として、夜は明け始める。重荷を背負った二人の周りの夜が明ける。明けない夜はないのだ。“卒業”という終わりから始まっていく希望のストーリー。

最初の「エンドロールが始まる」が一番良かったと思います。最初と最後がよければ短編集は締まりますから。
卒業式って確かに終わり(エンドロール)ですが、新たな始まりなんですよね。
だから湿っぽくなっちゃいけない。その点すべての話で希望が見えたから感想も前向きになりますよ。
「寺田……」の話にしても想像するだに辛いあるいは似たような経験は誰にでもあるかもしれませんが、このまま後藤と寺田が付き合っても絶対にいずれ別れますよ。だから、あれで良かったんです。
まだまだ巧い小説家とは云えないと思いますけど。雰囲気はありますよね。
なお、中身よりも良かったのは、表紙カバーの写真。
少女は卒業しないというタイトルそのものに思える装丁ですよね。これで読んでみようと思いました。
写真を撮ったのは小野啓さん。ブログを読むと被写体をさがすのに苦労したようです。ということはこの女の子、素人さん!?と一瞬思いましたけど、んなわけないよね中面の写真も彼女みたいだしモデルでしょう、きっと。
ちなみに写真の背景は神奈川県立川和高等学校だそうです。


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