「ルーズヴェルト・ゲーム」池井戸潤

新聞の広告では野球小説という所感が書かれていたこともあり、私もそのつもりで読んだのですが、読み終えたいま、れっきとした経済・企業小説であったと思っています。
実業団野球、社会人野球、ノンプロといった言葉、最近ではめっきり耳にする機会が減ってきましたね。
都市対抗野球も興味ありませんし、私の場合はプロ野球のドラフト会議のニュースで話題の選手の所属先として聞くくらいでしょうか。まだ、サッカーのJFL(アマ全国リーグ)の方がメディアに取り上げられる機会が多いかもしれません。
本作に書かれているように、サッカー人気の隆盛と、プロ野球人気の陰りに伴い、社会人野球そのものが世の中の注目を集めにくくあること、社員と会社の関係、価値観の変容により(昔は我が社の野球チームに誇りを持っていた)企業が野球チームを持つことのメリットがますますなくなりつつあるのでしょうね。

青島製作所は中堅電子部品メーカーであり、年商5百億円、経常利益約40億円。正社員1500人、派遣労働者200人を抱えるこの会社には創業者会長が起ち上げた歴史の古い野球部があります。
しかし、金融危機に端を発した不況と、それに伴う生産調整の嵐は激しさを増し、ライバル企業との受注合戦も熾烈を極め、本社の業績が急激に悪化する中、かつては東京都代表の常連であり都市対抗野球で優勝したこともある社会人野球の名門である野球部も、最近のぱっとしない戦績と社内野球人気の低落もあって会社のお荷物寸前になっていました。
そして、銀行からの融資と引き換えに社員百人、年間人件費6億円の削減という大幅なリストラを実行するに及び、年間3億円弱の経費がかかっている野球部へも廃部への圧力が高まるのです。
青島製作所で3億の利益をあげようとすれば、30億の売り上げが必要ですから、当然でしょうね。
総務部長であり、野球素人でありながら野球部部長である三上文夫はなんとか野球部を助けようとします。
しかし、廃部濃厚という規定路線を覆す起死回生の妙案は思い浮かぶはずもなく、監督と中心選手をライバル企業チームであるミツワ電器に引き抜かれ、無名の元高校野球監督を迎えた新生青島製作所野球部は、最後の大会になるかもしれない都市対抗野球東京都予選に臨むのです。
そのあいだにも、青島製作所社長の細川充に企業合併を持ち掛けたり、株主に接触したりときな臭い動きを見せる、まるで豊臣秀吉のように老獪な商売人であるライバル企業・ミツワ電器社長の坂東昌彦。彼の真の狙いとは?
野球は8対7が一番面白い、とアメリカ大統領フランクリン・ルーズヴェルトが言ったことからこのスコアの試合を“ルーズヴェルト・ゲーム”と呼びます。
まさに、青島製作所、そして野球部の現状は0対7の劣勢かもしれません。
はたしてここから両者は起死回生の“ルーズヴェルト・ゲーム”を魅せることが出来るのでしょうか。
会社、そして野球を信じて応援してくれるすべての人たちに対して。

数年前から順次、地方新聞に掲載されていた作品で、その意味では直木賞受賞後第一作ではありませんが、面白かったです。文章や構成も平易で先の予想できる勧善懲悪的な経済小説がこの作家の“型なんですが”、納得できる現実的なラストも用意されており、一気に読むことができました。
プロ野球とは違いますが、野球採用された職業野球人である実業団選手のことを初めて読んだような気がします。
経費3億というとJリーグで最低ラインのチームの予算くらいですね。そりゃ実業団チームが減るわけだ……
しかし、社員の気持ちがひとつになり、どんなに劣勢でもみんなで勝利を信じて応援すること、選手と社員がグラウンドでひとつになるような瞬間があれば素晴らしいことだと思いますし、コストやら経営効率では計れない貴重なものだと思います。それは、会社だけ儲かっても社員が不幸であれば意味がない、社員まで幸せにしてはじめて経営に成功したといえる『イズム』にも通ずるものだとも思いますしね。
サッカーの天皇杯みたいな、プロもアマも一堂に会して優勝杯を競う大会があればいいんですけどね。そしたら現在の低迷した社会人野球の現状は変わると思います。それに、PLと阪神の試合なんて観てみたいですよ。
私が生きているうちはあり得ないでしょうが。


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