「最後の撃墜王」碇義朗

紫電改戦闘機隊であった343空戦闘301飛行隊長菅野直(かんのなおし)大尉の評伝です。
この人はもし生きていたら、でっかいことをやっただろうとも思うし、もし幕末にでも生まれてたら、高杉晋作そっくりだったろうとも思うんですが、私は、死に時を間違わなかった人だな、とも思うんです。
昭和20年8月1日の運命の日、23歳と10ヶ月の短すぎる人生を全うして格好よく死んだと思っています。
軍律を犯して脱外出し、酒もたらふく飲んだし、女遊びも派手にやった。海軍で誰もが知る撃墜王。
その当時の言葉でMMK(もててもてて困るの意。当時も略語はあった)だったそうですし(笑)

菅野直は、大正10年、宮城県出身。著者は菅野の少年時代の日記を多く抜粋していますが、それを読む限り、天才だと思いますねえ。石川啄木を愛していた文学少年だったようですが、このあたり後年の暴れん坊ぶりからは想像もできません。いずれにしても海軍兵学校はバカは絶対受かりません、現在の東大京大クラスだと思います。
海兵70期(昭和13年)は、同期に神風敷島隊の関行男、香取穎男(「空母零戦隊」「最後の零戦」カテゴリー海軍戦史・戦記参照)がいます。卒業生434名中、航空は180名、内132名戦死。
著者は、菅野の人間性を陽性、関を陰性と書いています。
昭和16年11月に開戦事情により兵学校を繰り上げ卒業後、戦艦「扶桑」乗組みを経て、昭和17年5月より第38期飛行学生。練習機を壊しまくり、“菅野デストロイヤー”の異名が轟きます。昭和19年2月、343空(前身。後の松山とは別)に属し、マリアナ進出、パラオ転進、7月搭乗員の大半が失われ、解隊。その後、201空に任ぜられ、フィリピン・ダバオ、ヤップ島を転戦。B24の尾翼を自機の翼で削って撃墜したり、前上方背面垂直攻撃という敵大型爆撃機に対するアクロバティックな攻撃方法を編み出しました。
昭和19年12月に開隊された松山343空には、内地で編成する新しい戦闘機隊の飛行隊長として、当時海軍航空参謀の主要参謀だった軍令部源田実大佐(343空司令に転属)に引き抜かれました。
古参のパイロットを多く召集したこの航空隊は、紫電11型で訓練をスタート、そして零戦の倍の2千馬力のエンジンを搭載した「紫電改」が主戦戦闘機となり、米軍にとって厄介で強力な制空隊となりました。
それでも数で押されるんですがね。菅野の列機には、杉田庄一(山本長官戦死時の護衛機、後に撃墜王)、武藤金義(坂井三郎曰く撃墜王西沢広義に勝るとも劣らぬ名パイロット)がいました。他にも本作には角田和男、坂井三郎やらたくさん著名なパイロットの名前が登場します。
戦死後、名誉の全軍布告された菅野直の撃墜破数は、協同撃墜含む72機です。(零戦で30、昭和19・1~11、紫電改で42、昭和20・3~)

昭和20年8月1日、終戦のわずか2週間前、屋久島上空で彼に何が起きたのか、はっきりとわかっていません。
誰も彼の最期を見てないのです。
ただ、列機の通信によれば、紫電改の20ミリ機銃が筒内爆発を起こし、彼は敵爆撃機との戦闘から離れていました。著者がひもといた米軍の戦史によれば、爆撃機を掩護していたP51ムスタングが急襲したという見解がいちばん妥当なのかなとは思いますが……真相はわかりません。
このときの乗機は、有名な胴体に2本の黄線を画いた“菅野大尉専用紫電改343A-15”ではありません。
私は死角の上後方から急襲されてやられたのだと思いますがね。著者も書いているようにそれでは菅野の性格上、敵にやられては納得できないかもしれませんが、そのときより7年前の彼が16歳の時の日記に、「僕の瞳を左上から右下に切り下げたものがある。金星の流れ星だ。タタッターと一丈ばかり下界に向かって突進した。気持ちがすうっとした。……人生はこれ蘭干たる星辰の明滅の間」と書かれているのを見れば、まさに彼は自分の死を予知していたかのようで、著者の感慨に納得しつつ、本当に格好よくこの世から消え去った男だな、と思うんですよ。
菅野直、もって銘すべし。






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