「忍び秘伝」乾緑郎

正直に告白すると、違う本と間違って読んでいました。
「完全なる首長竜の日」(カテゴリー・ファンタジックミステリー参照)が面白かったので、たぶん乾緑郎のデビュー作である朝日時代小説大賞受賞作「忍び○○」を読んでみようと思い、本作「忍び秘伝」を手にとり、のっけから引き込まれ、途中でハラハラドキドキ、ラストで唸り、さすがこの作家はデビュー作からして出来が違うな、と奥付を見たあたりで、本作は昨冬に刊行された乾緑郎の最新刊であることが判明したのです。
第2回朝日時代小説大賞受賞作であり、小説デビュー作は「忍び外伝」です。
本作は「忍び秘伝」です。ややこしい。くれぐれも皆様は間違いなきよう。話が繋がってなけりゃいいんですが

とはいえ、本作面白かったので、なんの文句もありません。
物語は、天文11年(1542)、信濃の地方豪族であり諏訪大社の大祝職でもあった諏訪頼重が、姻戚関係にあった甲斐の武田家に攻め込まれるあたりから始まります。諏訪頼重と武田信玄の妹、禰々(ねね)の間には、寅王丸という子がいました。この寅王丸の運命と、信濃の歩き巫女(ノノウ)の修行をしている小梅の謎をめぐって、本作のストーリーは展開していくわけです。
もちろん、タイトル通り、忍術が溢れております。加藤弾蔵とか、山本勘助とかね。若き日の真田昌幸(武藤喜兵衛)や、ず――っと後には猿飛佐助らしき子供も出てきたり。
加藤弾蔵は飛加藤、とも云われる有名な忍者で、司馬遼太郎の短篇で読んだことがあります。
伝説はともかく、実在した人間であろうとも云われています。
本作では武田信玄にしろ、山本勘助にしろ歴史上の人物と実史との関連はなく、まあ伝奇小説らしい荒唐無稽なはちゃめちゃが面白いわけなんですが、作中にある武田信虎の描写のように、作者の歴史通ぶりが存分に披露されている部分も多いです。だから、ただのファンタジーじゃないですね、歴史好きならなおいっそう楽しめる作品であると思います。

他にも、読みながら感じるところがあって、参考文献に目を通すとやはりラヴクラフトの名前がありました。
西域で書かれ日本に伝わったという謎の書物「在阿条経」を使い、術者が五逆(親殺し、祖父母殺し、主君殺し)を犯して無道に堕ちたうえで、ある条件のもと諏訪の血筋を引いたものに兇神が宿ることを利用すれば、御左口神という太古の蕃神が現れるのですが、このへん、いかにもラヴクラフトらしかったですね。
普通に読んでいるうちは、寅王丸が武田に復讐するのだろうかと考えていましたが、全然違います。
山本勘助が、寺から連れ出された五歳にも満たない寅王丸を前にして「懐かしいのう」と口にするのですが、この謎が解けるのは、物語の最後です。
「あっ」と目が点になり、この作家の創造性の切れ味に、うなりました。
なるほど、そういうことだったのですね。物語の中でたびたび気になる小さな?が氷解することでしょう。
終章はいらない、とも思いましたね。273ページで終わってもよかった。

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この記事へのコメント

No title - 通りすがり - 2012年02月21日 22:19:03

 両方読みましたけど、『忍び外伝』と『忍び秘伝』は、完全に独立した物語で、一切、話は繋がっていないので大丈夫ですよ。

Re - 焼酎太郎 - 2012年02月22日 10:39:03

繋がってませんか、よかったです!
ありがとうございました

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