「誰も知らない、もう一つのレイテ沖海戦」阪口雄三

サブタイトルは「防空駆逐艦初月・一対十六の殿戦(しんがりせん)」。
レイテ沖海戦の本(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)はたくさん読んできましたが、駆逐艦初月の存在は、その中でも気になるところでした。
日本最後の機動部隊、小沢艦隊の旗艦瑞鶴の護衛としてフィリピン・エンガノ岬沖に出撃した初月は、沈没した味方船の乗組員救助に走り回っているうちに、残存艦追撃をもくろむデュボーズ少将率いる重巡洋艦2、軽巡洋艦2、駆逐艦14の優勢なる米艦隊の射撃圏に捉えられてしまうのです。
初月に乗り組んだ第61駆逐隊司令天野重隆大佐と艦長橋本金松中佐の間にどのような会話があったのかわかりません。初月はしゃにむに逃げるのではなく、この敵大艦隊に対して堂々と戦いを挑んだのです。右に左に巧みな操船で敵弾を避け、いっせいに放たれた魚雷をかわし、当時世界最高水準の4秒斉射の対空用高角砲を水平にして撃ちまくり、機をみた果敢な魚雷攻撃に米艦隊は慌てて回頭する始末。
14隻の駆逐艦を除いた米軍巡洋艦4隻の弾薬消費量だけで2553発にもなりました。
「このあまりの粘り強さは、ひょっとすると重巡洋艦ではないのか?」米艦隊上層部は焦りました。
そして、2時間後の午後8時57分、持てる力のすべてを全艦一丸となって出し切った初月はついに刀つき矢折れ、北緯20度24分・東経126度20分の海に沈みました。
わずか排水量2700トンのたった1隻の駆逐艦に対して2時間もてこずり、日本残存部隊の掃討を諦めざるをえなくなった米艦隊司令デュボーズ少将は「断腸の思いである」と述べるとともに、敵駆逐艦初月の戦いを高く評価したのでした。

初月の最期は謎でした。戦闘前に置き去りにされた内火艇(のちに漂流して台湾で救助された)の8人を除く355名の乗組員と、救助された800~900名はすべて全滅し、最期を伝える生存者は存在しなかったからです。
昭和50年代になって初めて米海軍戦史により、ようやく謎だった初月の最期が判明したのでした。
駆逐艦「初月」は、昭和17年6月に竣工した「秋月」の4番艦で、昭和17年12月に竣工した、最新鋭の防空駆逐艦です。その兵装は素晴らしく、艦の前後に二段の二連装砲塔があり、九三式酸素魚雷八本、合計八門の高角砲が装備されていました。この高角砲は当時世界最新の対空高射砲であり、電動で動き、給弾も半自動化していました。仕組みの詳しいことも書かれているのですが、残念ながら私にはわかりませんでした。
ただ、米航空隊が「この種の駆逐艦には不用意に近づくな」と警告を発したほど、初月含む「月」クラス駆逐艦の能力が高かったことは確かです。
その任務は、空母の上空への敵航空機の侵入を防ぐことであり、昭和13年に建造が計画されたこの種の艦艇の登場が早ければ少しは戦況は違ったものになったかもしれません。なぜ4年もかかったのかは知りませんが……

著者の阪口雄三氏は、初月の機関科付阪口健次郎中尉の弟にあたる方です。
明らかでなかった初月の最期や、出撃前の呉での死を覚悟した乗組員の様子などを書きおいた功績は大きいですが、もう少し「初月」に焦点をあてた構成でもよかったと思います。
200ページほどが、日本海軍やレイテ沖海戦の概論になってしまっています。
もちろん、日本海軍軍令部が腐りきっていたことには同意ですし、「人権を無視した日本では武士社会の掟、武士道が生きていたのです。武士がなくなって百年ちかく経っているのに、なぜこんなものが生きていたのでしょうか」と書かれていたのを読んだときには、目が開く思いがしました。




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