「百年文庫 闇」コンラッド・大岡昇平・フロベール

百年文庫の7年目は「闇」がテーマです。
「闇」とは何か?がじっくり考えられる三篇の作品が揃っています。
三篇ともに共通しているのは、その深く暗い混沌からどういう運命が生み出されるのか、人智の範囲を超えている「闇」という漆黒に対する畏怖でしょうね。
暗闇だってそうです。ライト片手におそるおそる進むのは、先に何が待ち受けているのかわからないからです。
人間は潜在的に「闇」を恐れているのでしょう。
しかし、我々の社会は常に光に溢れているわけではありません。一寸先は闇、光と闇は表裏一体であり、そこに人間の運命の儚さを知ることになるのです。

「進歩の前哨基地」コンラッド(1857~1924)
 未開地だったアフリカの交易所で働く、白人の物語です。著者のコンゴでの経験が元になっているそうです。
19世紀後半のコンゴは、ヨーロッパの文明社会からすると「闇」でしょう。言葉も通じぬ住民は、何を考えているやもわかりません。ジャングルの奥深くには何が潜んでいるかも知りえません。が、この話で一番怖いのは、白人ふたりの運命ではなく、交易所で雇っていた英語もフランス語も話し、簿記もできるマコラという黒人の信仰でしょう。

「暗号手」大岡昇平(1909~1988)
 「レイテ戦記」(カテゴリー戦史・戦記参照)で有名な大岡昇平は、35歳で召集されフィリピンの舞台で暗号手をしていました。そのときの体験です。暗号手というのは、部隊から部隊への通信を敵に傍受されても解読できないように暗号化、非暗号化する兵種です。この話は、言い方は悪いですが相当皮肉が効いており、まるで昔話のような落ちがついています。戦局が悪化し、とうがたって応召された兵隊は会社員も多くいたことでしょうし、軍隊での暮らしに会社での経験を活かしたはずです。自分が生き易いようにね。「軍隊で株を上げるな」とはよく言ったものですね。結局、作者が生き残り、中山が死んだというこの運命は何が分けたのか、それは「闇」の中なのでわからないんですね。だから怖いんです。

「聖ジュリアン伝」フロベール(1821~1880)
 1877年に発表されたという本作を、どう捉えたらいいものか迷いました。
前二作が、それぞれ「社会の闇」「運命の闇」を描いてるとすれば、本作は「心の闇」になるでしょう。
宗教小説ではないと思うんですね。ただ、この作品が言外に何かを比喩しているとすれば、それは私にはわかりません。ただ、ジュリアンが若いときにどんどんと動物を殺戮していくシーン、あれは怖いと思いました。
人間なら、誰でももっている「闇」かもしれません。そして我々が救われるのは、最期の一瞬だけかもしれないですね。



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