「流れる」幸田文

「百年文庫 音」(カテゴリー文学アンソロジー参照)所収の「台所のおと」を読んで、その美しい文章と文学的センスに惹き付けられ、幸田文(こうだあや)の長編小説を読んでみることにしました。
まず選んだ本は「流れる」。昭和30年発表のこの小説は、日本芸術院賞を受賞しています。
幸田露伴というビッグネームの娘にして、この実力。
しかも、本作は、作者が何ゆえかわかりませんが、断筆宣言をして芸者置屋の女中として働いた実際の経験を元に書かれた小説です。
この人、普通なら逆の立場でしょ。自分がお嬢さんで、女中を使う側ですよね。
戦後まもなくの混乱期だからでしょうか。この点はこれから著作を積読して研究してみたいと思います。

時代は昭和20年代後半でしょうか。明記されていませんが、コロッケ5円、団子一串10円、米一合17円という物価のころのお話です。90ページほど読んでやっと、戦後という単語がでてくるまで、それすら知りえませんでした。
四十過ぎて、戦後急激に衰え、とうとう畳一枚も持てなくなった梨花は、蔦の家という屋号の芸者置屋の住み込み女中になります。女中とは、台所仕事、せんたく、掃除、使い走りなどの雑用いっさいがっさいやらされます。
今で云う家政婦みたいなものですね。
そういえば、最近も高視聴率の家政婦が主役のドラマがありましたが、設定や時代背景は比較になりませんが、根本は似ているといえるでしょう。「第三者」の視点を持てる者ですからね。それでいて、周りからは頼りにされ、本人も情がわき、人間関係が深まると、おのずとそこにはドラマが生まれます。
場所はどこだかいっさい書かれていませんが、芸者置屋という特殊な現場だと、さらにドラマ性は増します。
老いた元芸妓のしみついた色香を起床の身のこなしにみたり、女主人の倒れるさまにその体の崩れ方に妖しい美しさをみたり、花柳界は一般社会とはまったく違った世界であるということを、作者は「くろうと」と「しろうと」と区別して語ります。
やがて梨花は、「くろうと」の世界のせまさに居心地の良さをおぼえ、「しろうと」の世界の浅い広さに面倒な気もちを抱くようになります。水が合っていたというのもあり、梨花という頭の良い女性が泳いでいくに池の大きさがちょうど良かったということかもしれませんし、「しろうと」の世界から来たからこそ、せまい「くろうと」の連中を出し抜くことができた、のかもしれません。
しかし梨花は「男を代えれば代えるほど女は情が深くなっていくものなんだよ」なんて言葉を聴いて自分の過ぎてしまった過去に悔しがったりもしているんですね。
続編があればぜひとも読んでみたかった物語です。
しっとりと作品に読み手の意識が寄り添い、自然と本の中に入っていける名著です。
「流れる」というタイトルのわけは、最後で理解できます。


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