「夢違」恩田陸

西暦2020年(およそ)の近未来。
「夢札を引く」という精神医療行為が行われています。
これは、夢そのものを映像データとして可視化、保存できるようになり、夢判断という国家資格を持った人間が夢の分析を行うというものです。
主人公の野田浩章も夢判断を職業としているひとりです。
彼がこの職業に就いた理由は、ある忘れられない女性の影響でした。
その女性とは、浩章の兄の婚約者であった古藤結衣子。そして、彼女は予知夢を見ていることが認められた、日本で最初の人物だったのです。
ある日、図書館で浩章は結衣子らしき女性を見かけて、愕然とします。
なぜなら、十年前に起きた爆発事故で、すでに彼女は亡くなっていたからです。
しかし、髪にひと房目立つ白い部分がある彼女の特徴は、見間違えようのないものでした。
そして浩章は夢判断においても、日本各地で発生した謎の事件の渦中に取り込まれることになります。
岐阜県飛騨の小学校で起きた集団パニックの原因を突き止めるため、夢札を引くことになったのですが、子供の夢に投影されたその驚くべき姿とは!?
子供たちの夢、結衣子の夢、山の向こうから何かがやってくる――すべては繋がっているのでしょうか。
個人個人の意識の外に、人類全体が共有する巨大な無意識とは、その概念とはいったい何なのか。
果たして結衣子はどこに存在しているのか。
恩田ワールド全開の、直木賞候補作です(今日は受賞作発表1週間前)。

さてさて、本作で恩田陸が直木賞を獲るのかどうか、それはおいといて、いかにも恩田陸らしい作品であったと思います。この作家は相変わらず雰囲気で読ませるんですよね。それはデビュー作といっていい「六番目の小夜子」から変わっていません。だから、ディテールを気にしすぎてはいけません。
どんな歌手にもつまらないシングルがあるのに、小説家が面白い作品ばかり紡ぎだせるはずがないのですが、恩田陸の場合はたまに音がはずれた演歌みたいな、どうしようもないものを踏んでしまうことがままあります。
しかし、本作「夢違(ゆめちがい)」は、少し複雑になる傾向に目をつぶって雰囲気を楽しめば、傑作といっていいでしょう。特にラスト。どうして、夢違というタイトルなのか、夢違であって夢違いでないのか、わかります。
そして浩章の横に並ぶ彼女。実は伏線は、玉紀が早夜香に行った逆行催眠にありました。過去の記憶の中で未来が現れるというすばらしいアイディアには脱帽しました。
ということは、3月14日月曜日、浩章の元にやってきた彼女は夢ではありません。実体です。
そのつかの間の夢のような時間こそ現実であって、それからふたりがその時間をどう過ごしたのだろうと考えると、そのあまりのロマンティックな切なさにぎゅっと胸が締めつけられるような余韻が残りました。
だから私にとっては傑作でしたね。
好きなら好きと言っておかなくちゃ、明日、あなたが消える、その前に。

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この記事へのコメント

- 藍色 - 2014年01月24日 14:20:28

面白かったです。
ページ数は多いのに読みやすく、1日で一気に読んでしまいました。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

Re - 焼酎太郎 - 2014年01月24日 18:20:17

そうですね。
これはラスト付近の雰囲気が良かったでしょう。
恩田陸の良さが出た作品でした。

コメントありがとうございました☆

トラックバック

粋な提案 - 2014年01月24日 13:50

「夢違」恩田陸

「何かが教室に侵入してきた」。学校で頻発する、集団白昼夢。夢が記録されデータ化される時代、「夢判断」を手がける浩章のもとに、夢の解析依頼が入る。悪夢は現実化するのか? 戦慄と驚愕の幻視サスペンス。 夢を映像として記録し、デジタル化した「夢札」。夢を解析する「夢判断」を職業とする浩章は、亡くなったはずの女の影に悩まされていた。予知夢を見る女、結衣子。俺は幽霊を視ているのだろうか?そんな折、...

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