「第三の嘘」アゴタ・クリストフ

「書かなければ、生きる理由がありません。書かなければ、なんて退屈なんでしょう。何をしていいやらわかりません……」アゴタ・クリストフはインタビューでこう言ったらしいです。
本のそでに著者の写真があるのですが、穏やかそうな眼鏡の中年女性に見えます。
しかし、あとがきに訳者の堀茂樹氏がまとめたインタビュー記事の語録によれば、けっこう激しい内容もあったりするのです。世界の動乱時代を生き抜いた人ですからね。「悪童日記」から続く三部作には、そんな激動の時代をかいくぐってきた著者の実体験も、多く散りばめられているみたいです。
そして、この虚実織り交ざった長い物語の背景にもずっと、どんよりと薄暗い全体主義の雲がかかっていましたね。ある意味、「ぼくら」という双子の兄弟よりも、それらイデオロギーのほうが主題であったのかもしれません。
どちらにしても、面白く読ませていただきました。
三部作の完結編と云われる本作「第三の嘘」を読み終えたばかりでの感想は、「なるほど、これが真実であったのだな?」という感じです。最後は?ですが……

物語は、前作「ふたりの証拠」(カテゴリー海外小説・文学)に結末の調書がありましたが、その続きです。
いわゆる、この投獄されている「私」という一人称による告白、これはクラウスなのですが、実はリュカです。
そして、本作の世界を真実とするならば、前二作は、リュカの創作ということになります。
ただ、リュカが帳面をクラウスに渡したあとに、クラウスが続く物語を創作している可能性はあります。
だから、サラが腹違いの妹であるのは創作の中の話であって、実の世界では、彼の妻なのかもしれません。
この物語が面白いのにわかりにくく感じるのは、真実の世界と、創作の中の世界が混ざっている、つまり虚実の世界が織り交ぜられているからです。
たとえば、ぺテールとクララは、前作「ふたりの証拠」ではK市の党書記と図書館の職員でしたが、真実の世界では西側社会でリュカの生活を助けた人物ということになっています。
ただし、「おばあさん」は実在していたようです。つまりリュカが国境を超えるまで世話になっていた老女がモデルだったのですね。そして、耐えがたい孤独に耐えるために、離れ離れになってしまった兄弟(クラウス)を創作の中に登場させた。だから「悪童日記」は「ぼくら」であったのです。
ややこしいですね(笑)
本作のタイトルだって「第三の嘘」ですよ。ということは、この物語も創作ではないのか?
しかし、私はそうは思いません。タイトルの「第三の嘘」とは、文中にある、リュカが国境を脱出したときにエサとしたのは父親ではなかったこと、十八歳ではなく十五歳、そして私の名はクラウスではない、つまり西側自由世界に亡命(逃亡)したときに、彼は係官に三つの嘘をついたのですが、その中で最大の謎にして本作のテーマである、「私の名はクラウスではない」これが三番目の嘘、第三の嘘ということではないのか、と私は思うんですね。

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