「ふたりの証拠」アゴタ・クリストフ

ラストのK市(小さな町)当局が、D大使館向けに作成した調書の件はひとまずおいておきます。
本作は、前作「悪童日記」(カテゴリー海外小説・文学)の直後の世界を描いた物語です。
前作の最期で、主人公である双子の兄弟「ぼくら」は、父親をエサにして、地雷が爆発した間隙をついて、ひとりが国境を越えて脱出しました。そしてもうひとりは、そのまま「おばあさんの家」に帰りました。
脱出したほうはクラウス(CLAUS)、残ったほうはリュカ(LUCAS)といいます。
本作は、残ったリュカの15歳から20代前半までの生きざまを綴った物語です。

まず、前作「悪童日記」では、固有名詞はありませんでした。そこが違いのひとつです。
本作では、人名はおろか、人口一万人兵隊五千人という“小さな町”の規模まで記されています。
また、「母に連れてこられたのは6年前」という記述から、「悪童日記」の世界は9歳のときであったこともうかがいしれます。
ただ、舞台は共産主義下のハンガリーでしょうが、都市名や国名だけは伏せられています。
そして、読み始めてだんだんと気付く最も大きな違いは、物語のトーンが全く前作とは異なることです。
異形の小説だった前作と比べて、本作は文学性が高いです。どこか、村上春樹の雰囲気もあります。
よく読んでいないと、わかりにくい部分もあります。
たとえば、リュカの生活に空白の時間があること。そして、双子の兄弟のうちひとりが失踪したのに、町の人たちに反応が見られないことなど、「なんか変だな」と感じられる箇所があります。
登場人物も多いです。公立図書館で働くクララ、党書記のぺテール、書店のヴィクトール、ヤスミーヌとマティアスの母娘、不眠症の老人ミカエルなど、それぞれに物語を抱えているのです。
結局、リュカは30歳で、この小さな町(K市)から消えてしまいます。
それから20年後、クラウスがやってくるのです。
別々にひとりで生きることを学ぶ必要を感じて別離した「ぼくら」という双子はいったい何者なのか。
ラストの調書は、衝撃的でした。それはいったいどこまでを打ち消す力を持っているのだろうかと
ただし、それは、三部作の完結編「第三の嘘」を読んでみなければ、無責任な推理はできません。
この世界をどうまとめるのか、アゴタ・クリストフの真価が問われますね。

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