「検証・山本五十六長官の戦死」山室英男・緒方徹

1943年(昭和18年)4月18日、連合艦隊司令長官・山本五十六元帥を乗せた一式陸上攻撃機は、アメリカ陸軍機の攻撃を受け、ブーゲンビル島のジャングルに墜落しました。
長官はなぜ、ブーゲンビル島の最前線に行かざるを得なかったのか?
そしてなぜあれほど簡単に撃墜されてしまったのか?
本書は結論から云えば大変に興味深い内容であり、山本五十六長官機撃墜事件にスポットを当てながら、なぜ日本軍は敗れたのかという根元的な問題まで浮き彫りにしています。

山本五十六は明治三十七年海軍兵学校卒業、海軍大学校卒業後アメリカ大使館附武官、航空本部技術部長、海軍航空本部長などを経て昭和14年8月、連合艦隊司令長官に任ぜられました。
しかし、その名は太平洋戦争がはじまるまで国民一般に馴染み深いものではありませんでした。
それが12月8日の開戦後、子供までが記憶して忘れなかったほど一挙に高まったのです。
本書は開戦より連戦連勝、ミッドウェー海戦で節目が変わり、ガダルカナルで形勢が逆転していくまでの太平洋戦争の道程を的確に振り返り、山本五十六にとって運命の日にまで導いていきます。
その運命の日、山本長官ら連合艦隊司令部は、2機の一式陸攻、6機の護衛零戦でブーゲンビル島の「ブイン」「バラレ島」「ショートランド島」の最前線の実視を決行しました。
結局、その視察の日程を味方基地に知らしめる暗号電報がアメリカ軍に解読されたのです。ショートランド島の水上機隊司令城島高次少将は日程だけでなく服装の注意まで記されたその長い電報に危険を感じ、視察中止を進言しましたが受け入れられませんでした。また、第3艦隊司令長官であった小沢治三郎中将も護衛戦闘機の少なさに不安を抱いていました。
驚くべき情報を得たアメリカ軍は、太平洋艦隊司令長官ニミッツ大将以下、ソロモン地域担当のハルゼー提督、ガダルカナル飛行場のミッチャー少将へと指令は伝えられ、ミッチェル陸軍少佐率いる18機の双発・双銅のロッキードP38戦闘機が山本五十六を抹殺するべく出撃したのです。
彼らは、分刻みの緻密な計画のもと日本軍の優勢空域を迂回し、低空で接近、要人の乗る一式陸攻だけに的を絞り勇敢に攻撃を強行しました。
なぜ、暗号電報が解読されたのか?本書の考察では、視察日程を知らしめるべきひとりであった第26航空戦隊司令官上阪香苗少将が本部のあるブインを離れてバラレにいたために、当地には解読の難しい高度の戦略暗号を受信できる設備がなく、比較的易しい暗号によって電報が作成されたためにアメリカ軍の傍受、解読するところとなった、とされています。
また、ブイン方面は海軍の最高指揮官が薄い護衛で視察に行くような状況ではなく、連合艦隊参謀が現地の空襲状況をよく調べもせずにずさんな視察プランを立てたと推察しています。
2機の一式陸攻のうち、宇垣参謀長らの搭乗した2番機は攻撃されながらも海上に不時着しました。このパイロット、および護衛零戦隊のひとりは戦後も生き残り、本書にも貴重な証言が寄せられています。また、長官機を撃墜したアメリカ軍のパイロットの記録も載せられています。
結局、著者も繰り返し書いているし、私も同感するのは、暗号が解読されたこの一件もさることながら、艦船のレーダーやら、航空機の無線やら、日本軍の「情報技術」に対する軽視なのですよ。
素晴らしい魚雷をつくる工業技術がありながら、「情報」分野ではアメリカ軍に数段劣っていました。
現代における情報産業も先進的な発信で世界をリードしているのは常に欧米諸国です。
車を作らせたら上手いが、情報には弱い、これは日本人の民族的な特性かもしれませんね。
長官機墜落が国民に知らされたのは、事件から一ヶ月後の5月21日でした。
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