「暗渠の宿」西村賢太

「けがれなき酒のへど」「暗渠の宿」のふたつの作品が収録されています。
「けがれなき酒のへど」は2004年12月の「文學界」に発表され、西村賢太の最初期の作品ではないでしょうか。
その割には、「苦役列車」(カテゴリー芥川賞受賞作参照)や「どうで死ぬ身の一踊り」(カテゴリー純文学・私小説参照)と比べても筆力に相違ありません。むしろ設定が目新しく面白いかもしれません。
どこまでが本当なのかわかりませんが、ソープランドの女に見事に騙される話ですけどね。
「藤澤清造全集」の刊行のために貯めておいた金まで掏ってしまいます。女の借金を返すという目的で。
すべて本当ならこれほどの阿呆はいないのではないか、とほとんどの人は思うでしょうが、西村賢太だけはわからないですね、性欲が強すぎるようですから、女のことが好きになればとことん視野が狭くなるかもしれません。
というより、好きになったと思いこんでいるのでしょう、性格は姑息で猥雑ですからね。
それでも、一種のすがすがしさは感じられます。そして、女に逢いにいくために所蔵していた古書を売るわけですが、やはりこの作家はたくさん近代のマイナーな作家まで読んでいると思わせる場面がありましたね。

「暗渠の宿」は例の東北出身の女性との話です。
主人公34歳、おんな28歳で同棲しているころの話です。「どうで死ぬ身の一踊り」と題材は同じです。
こっちの話のほうが面白いかもしれません。同棲初期のエピソードですので、DVネタも少ないですし。
トイレでケツの始末をしているところを女に見られてしまう、とか最高ですよね。
それで怒ってしまうのはもう本当に脳が逝かれていると思いますが。
同じ布団で寝ているのですから、いまさらケツの最期の一拭きを見られたところで怒ることないでしょう。
たぶんインフェリオリティ・コンプレックスの狂人レベルたる主人公の拠り所は、自分が「江戸っ子」であるということと、男尊女卑な思想しかもたぶんドSであり、瞬間湯沸かし的な性格の欠陥が理由として考えられますね。
女性には受け入れられにくいだろうと思う一方で、よくこんな面白いことが書けるなあと感心もしています。
それもたぶん恥をかく家族もいないし、不様なまでに女に好かれる要素が絶無の作者だから出来るのでしょう。「もってない」ことが武器になっているのです。
芥川賞作家となったことで「もってしまった」作者の作品は今後どうなってしまうのか。
2004年のやつが一番面白かったよ、と云われることがなきゃいいのですが。
作品中にでる「果敢なく」ははかなく、「慊く」はあきたらなく、だと思います。

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