「大空のサムライ」坂井三郎

坂井三郎という名前をどれだけの日本人が知っていたでしょうか。
本書が「SAMURAI」として世界中の言語に翻訳され、ベストセラーになったという事実を知っている日本人のほうが少ないんじゃないでしょうか。
本書は、この世界的にみても有名である「ZERO FIGHTER」・日本海軍零式艦上戦闘機のエースパイロットである坂井三郎の自伝です。
出撃200余回、空戦時間2000時間、敵機大小64機撃墜を誇る太平洋を舞ったサムライの記録です。

実は、私はだいぶ前に(少なくとも10年以上前)この本を読んだことがあったんですが、内容をすっかり失念していました。
ただ、うっすらと残っている記憶ではどうも使われている写真が違うような気がするのですが……
それに、今回読んだほうがずいぶんと内容が面白かったような気がします。たぶん、最近に「攻防」(カテゴリー戦史・戦記参照)を読んだのでラバウルなど激戦の背景が予備知識にあったからでしょう。
坂井三郎は大正五年佐賀県に生まれ、貧しい生活のうちに軍人の道を志し、少年航空兵の試験は落第しますが、一般海軍兵として佐世保海兵団に入隊後、戦艦「霧島」「榛名」の乗り組みを経て、飛行機乗りへの夢が捨てられず、操縦練習生の試験に見事合格、霞ヶ浦航空隊の教程を戦闘機パイロットの適性を得て首席で卒業します。
その後、九州での訓練を経て日華事変以来の歴戦の航空隊である第12航空隊の戦闘機搭乗員として中国大陸に赴任しました。これが昭和13年のころです。初撃墜は漢口基地上空、中国空軍のソ連製イー16戦闘機、このときの使用機体は九六式艦上戦闘機でした。この後、昭和15年7月まで中国戦線で活躍したのちいったん国内に帰属し、台湾で新型戦闘機である零戦を受領して再び中国戦線で活躍、戦闘機乗りとして腕を上げます。
米英との開戦が懸念された昭和16年秋には台南空(台南航空隊)に所属、フィリピンの米軍基地への遠距離攻撃を研究中、零戦の一時間の消費燃料67リットルという経済効率において不倒の記録を打ち立てました。
このへんが坂井三郎がただの空戦野郎ではないところなんです。飛行機乗りとして優秀なんです。
日本軍の南進に伴い、台南空はボルネオ、ジャワ、バリと転戦し、ついにラバウルに至ります。
ラバウルにおいて坂井は、西沢広義ら数々の歴戦の名パイロットと共に連合軍と死闘を繰り広げ、零戦の優性と自身の類稀な戦闘能力で撃墜機数を伸ばします。ポートモレスビー敵基地上空で高度2千メートルの低空で西沢ら僚機3機で宙返りを3回敢行、敵基地兵は度肝を抜かれ対空砲火をしなかったという逸話もありました。
そして運命のガダルカナル攻撃で、坂井は海面に波ひく敵輸送船団のあまりの物量に「ああ、この戦争は負けだ」と直感したそうです。この戦闘で彼は敵ドーントレスの編隊の後方集中射撃をうけ負傷、ほぼ失明状態でありながら懸命の操作でおよそ4時間半を飛行し、燃料切れ寸前でラバウルに帰還しました。
重傷をおった坂井は日本国内に移送され、手術を受けますが、特に右目の視力は回復せず、戦闘機パイロットとして一番の武器だった2・5の視力を失いました。
ラバウルへの再行が叶わなかった坂井は、大村航空隊で教官として若い海軍搭乗員の教育に奮闘したのち、横須賀航空隊に配属され、再び第一線のパイロットとして激戦の硫黄島に進出します。
視力が弱くなったとはいえ、ここでも敵機を撃墜、グラマン15機に囲まれながらも傷ひとつおわず帰投するなど活躍しましたが、連合軍の猛攻撃によって硫黄島の航空戦力は壊滅し、命からがら国内に転進した後、横須賀航空隊で終戦を迎えました。
坂井三郎のすごいところは、その「生還力」でしょう。もちろん運もあったでしょうが、本人によるあとがきにあるように、戦闘機搭乗員として酒を飲まず体調を整え、昼間の星を探して視力を鍛えたり、トンボやハエを素手でとらえて反射神経を訓練したり、一度に多くの事柄をこなして脳の整理能力を伸ばしたりするなど、日常においての努力が身を結んだといえます。
お互いが時速何百キロで飛行する空戦で、敵を撃墜することは云うに易く、その実際はとてつもなく難儀なことでしょう。たぶん、我々の想像を絶した世界ではないでしょうか。
生き残っただけではなく、64機を撃墜しながら戦争とはいえ敵パイロットを慮る心を忘れず、戦後世界にその活躍を知らしめた坂井三郎は、まさに世界に冠たる「ZERO FIGHTER]であり、日本の誇る大空のサムライでした。

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