「変幻」今野敏

 同期シリーズ(全三作)の完結編。
 警視庁捜査一課の中堅刑事宇田川亮太を主人公に人情味あふれる刑事たちが登場、今野敏にしてはミステリー色の濃い殺人事件の捜査を舞台として、刑事と公安、本部と所轄の確執など一筋縄ではいかない警察組織内部の暗闇を描き出したひと味違う傑作の警察サスペンス。

 今回のあらすじ。
 キャラは前とほぼ同じです。宇田川とコンビを組むベテラン刑事植松義彦や頼りになる名波係長など警視庁捜査一課殺人犯捜査第5係の面々、そして彼らをアウトレンジからサポートする特命捜査対策室の土岐達朗、宇田川と同期で表向きは警察を懲戒免職された公安の秘密捜査官蘇我和彦、同じく宇田川と同期で誘拐事件などを扱うSIT(特殊班捜査係)に配属されている女性警察官の大石陽子が、今回も活躍します。
 特に今回は導入から、大石陽子が行方不明になります。
 珍しく自分から宇田川や植松、土岐を招いて飲み会を開いた後、庁舎からその姿が消えます。
 宇田川らは、大石の職務柄、おそらく極秘で何らかのオペレーションを行っていると推測しましたが・・・
 一方、港区の埋立地の運河で、殺人事件が発生。
 第5係は出動し、そのまま臨海署に設けられた捜査本部に配属されました。
 宇田川とコンビを組んだのは、臨海署強行犯係の51歳のベテラン刑事荒川巡査部長。
 臨海署の刑事たちは閉鎖的といっていいくらい団結力が強く、本部への対抗意識もあって捜査本部内に摩擦が生まれますが、そこは根は同じ刑事たち、どうやら薬物の売人だったらしい被害者の身元が割れると、アメリカの麻薬マフィアとつながりが噂される暴力団のフロント企業に狙いを定め、事件の核心に迫ります。
 しかしとんでもない事態が・・・
 犯行現場近くの防犯カメラに映っていた被害者を運んだらしい車、その車を運転していたのはなんと大石陽子だったのです!
 庁舎から突然姿を消した大石がなぜ、間をおかずに犯罪に関わる車を運転していたのか?
 宇田川は混乱してしまうのです。

 シリーズ通して同じだったのは、事件の真犯人を追う刑事たちの捜査本部の裏で暗躍するもうひとつの警察がいること。今回は、警察など歯牙にもかけない麻取(厚労省麻薬取締部)まで登場してきました。
 それに対してクビになったらなったでいいと開き直っている宇田川が啖呵を切って正義を貫くのがこのシリーズの醍醐味なわけですけどね、いつも似たような展開にならざるをえないので完結になったのかなあ、と。
 この作家は、あまり人を殺しませんから、シリーズ作品の展開も進みようがありませんし。
 そのかわりに、あんがいミステリー色が濃いのが特徴で、これがけっこう楽しめます。
 今回もタネを明かせば単純なんですが、事件の構図が最後までわかりませんでしたから。
 ちょっとこれが最終作というのが惜しい気もします。
 本部と所轄の関係とかリアルっぽくて興味深かったですしね。
 小説だとあまりにも本部捜査一課S1Sの赤バッジと所轄のくたびれた中年刑事の差が大きいものですが、現実は本作のように所轄のベテラン刑事に本部の若手刑事が教えられることも多いのではないでしょうか。
 刑事と公安の関係はわかりませんけどね。
 けど今回考えさせられたのは、公安のほうの国の利益のために目をつむるところは目をつむるのもアリだろうな、ということです。まあ、殺人を見逃すのはよっぽどでしょうけども、アメリカの麻薬マフィアが日本を取り込もうとしている土壇場で半グレやヤクザのひとりふたり殺されてもその事件の捜査でカウンターインテリジェンスが阻害されるようなことがあっては、国民の利益に反するのではないですか。きっと目に見えない戦いは続いていると思うんですよね。
 宇田川を主人公とするこのシリーズは終わってしまうわけですけど、明かされることのなかった蘇我和彦の経歴にスポットを当てた蘇我メインの公安警察による裏シリーズを始めてほしいなあ。無理だろうけども。


 

 
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この記事へのコメント

- ひだまりさん。 - 2017年10月24日 21:02:38

お疲れさまです。

先に越されてしまいました ^_^;
完結編も面白そうですね。
まだ図書館から順番回ってきません (T ^ T)

先日読まれていた森見さんの『ペンギン・ハイウェイ』が気になっています。
図書館に予約したので、そっちが先に届きそうです。
楽しみです (*^^*)

Re - 焼酎太郎 - 2017年10月24日 23:41:29

おつかれさまです(*´∀`*)

先を越してしまいました。
シリーズファンなら文句なしの面白さかと思いますよ。
ペンギンについては、読む人によっては評価は分かれるかもしれません。
ひだまりさん。がどう思うのか私にもこれは特に予想はつかないですねえ。
かなりイレギュラーな作品です。
まあ・・・ひだまりさん。のブログを読んでいる感じでは
面白かったヮ(゚д゚)ォ!60%、つまんない(´・ω・`)40%くらいになりそうな気がします。

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