「ペンギン・ハイウェイ」森見登美彦

 私も、私の思い出も、みんな作りものだったなんて・・・

 第31回(2010年度)日本SF大賞受賞作です。
 普通の住宅街に南極圏にしか生息しないペンギンが現れたことを導入とし、続けざまに発生する摩訶不思議な事態に天才小学4年生のアオヤマ君を中心とするメンバーが謎を解決しようとするストーリー。
 一見ちょっとフワフワした感じのファンタジー小説なんですが、さすがは理系の作者だけあって最新物理学のエッセンスが加えられているところは見逃せません。
 しかも本作は2007年くらいの発表なんですが、女性物理学者リサ・ランドールが「ワープする宇宙」という多次元宇宙の存在を証明しようとしたベストセラー本が日本で刊行されたのも2007年ですから、まさに当時最新の理論を導入していたことになるかと思います。たとえばアオヤマ君のお父さんのセリフに「世界の果ては折りたたまれて、世界の内側にもぐりこんでいる」という言葉がありましたが、これなんてランドールの本を読んでいればヮ(゚д゚)ォ!とするはずですね。
 現実に宇宙には我々の住んでいる3次元世界より多次元の世界が存在して、それは小さく折りたたまれているので見えないということが推測されていますから。世界の果てというものが折りたたまれているという考えは作者のオリジナルでしょうがね、そういう発想ができるということ自体で本作は値打ちがあると思います。ただのファンタジーではありません。

 簡単にあらすじ。
 舞台は新興住宅街で、主人公は小学4年生のアオヤマ君。
 アオヤマ君は、幼くして大人に一目置かれる学者の卵。常にノートを持参して実験、研究を怠りません。
 どうやら社会的に地位の高そうな父親との知的なやりとりも、彼の生活に非常に影響を与えています。
 何かにつけ理論的に考えるアオヤマ君ですが、彼もまたひとりの男の子であり、興味のある女性はいます。
 それは通っている歯科医院で働いているおっぱいの大きなお姉さん。
 好きという理屈を超えた感情を制御できないまま、カフェでチェスを教えてもらったり彼はお姉さんと出会う一時を楽しんでいました。そんなとき、とんでもない事件が起きました。
 ただでさえ海のないこの街に、南極にしかいないペンギンの群れが現れたのです。
 ただちにこの怪現象を「ペンギン・ハイウェイ」(ペンギンが陸地から海を目指す道)と名付けて調査研究を開始したアオヤマ君。ところが、ペンギンの出処は、他ならぬ歯科医院のお姉さんであったことが判明し、彼は混乱します。
 一緒にいるときに、お姉さんはコーラの缶をペンギンに変えてしまったのです。
 さらには街の外れにある草原に、直径5メートルくらいの水で出来たような球体が空中で静止しているのを、クラスメイトの女子ハマモトさんが発見しました。「海」と名付けたこの謎の球体と、ペンギンを産み続けるお姉さんとの関係はいったい・・・!?
 少年科学者アオヤマ君の謎を解く冒険が始まります。

 思ったより切ないラストでした。
 物理的エッセンスといい、本当に懐の深い作家です。
 後にいくほど面白くなってきましたが、結局どういうことだったのでしょう。
 この物語で一番大きなイレギュラーは歯科医院のお姉さんでした。
 草原に浮かんでいた「海」が時空の穴であったとするならば、彼女はこの世の人ではありません。
 一瞬、これはすべてアオヤマ君の脳内ではないかと思っていたのですが、そうではなかったようです。
 第三者である彼のお父さんがお姉さんの存在を肯定していましたからね、事件のあとでも。
 もうひとつ小さなイレギュラーは、小学4年生になるまでアオヤマ君が海に行ったことないという事実。
 これはずっと謎で、この街も実は普通の3次元世界ではないのかも勘ぐりましたが、どうだったんでしょうねえ。
 ひょっとしたら、アオヤマ君は何らかの病気であった可能性もあります。旅行できないような。
 いやでも学校休んだときに、ずっと元気だったように書かれていたか・・・うーん。
 どうやら世界には解決しないほうがいい問題もあるようですね。
 同じように彼の小さな恋の行方もけっして解決されることはなく、記憶で塗りつぶされるべき問題なのです。
 何が悲しいって、それが一番悲しいよね。


 
 
 
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