「海軍陸上攻撃機隊」高橋勝作・中村友男・足立次郎ほか

 中攻隊には戦闘機隊でよくいわれる「エース」は存在しない。編隊の団結力で戦うからである。
 一式ライターといわれるほど防御の貧弱な、機銃の装備もB17などに比較すると完全な時代遅れのわが陸攻が、高角砲の斉射を受け、グラマンの反撃にみるみる被弾、自爆機の出るなかで、指揮機を中心にずらりと、ほとんど横一直線に並んだ一糸乱れぬ中攻特有の編隊、右を眺め左を眺めても、キラリキラリと輝くプロペラ、翼、心をこめて整備してくれた発動機、機体機銃の銃身の先端にいたるまで、闘魂と生気がみなぎっており、指揮官の心臓から高鳴る血潮が編隊の最翼端までほとばしっている。これが中攻隊編隊のこころであり、ここまで日頃の訓練を通じて結集したものが搭乗員といわず、隊員すべての心であった。(705空飛行隊長・中村友男)


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 海軍中攻隊搭乗員による戦記集。
 全6名による6篇。中攻のオーソリティと言われた古参幹部から5千時間を超える搭乗時間を誇る歴戦の電信員までいずれもレベル高し。一式ライターと不名誉なあだ名を賜った一式陸攻を本当に燃えやすいか横空で実験したところたちまち機銃掃射で燃え上がり三菱の技術者が泣いてしまった話など初めて聞く話や、神雷部隊飛行長だった足立次郎少佐の回顧録もありなかなか興味深い一冊に仕上がっていると思います。

「大陸長駆横断戦」高橋勝作(13空・少佐)
 支那事変初期空戦の衝陽空戦(昭和13年8月)、重慶爆撃(昭和14年5月)の回顧録。
 援護戦闘機なしの丸裸で出撃した96式陸攻隊の活躍をしのぶ。
「翼と南十字星」大沢武(美幌空・中尉)
 著者は飛行3千時間を超す歴戦の中攻偵察員。
 開戦準備のため鹿屋から台中に移動したとき隊幹部が乗った1番機が行方不明になったエピソードを皮切りに、シンガポール爆撃行、コタバル基地で敵の残した「風と共に去りぬ」の原書を見つけた話、陸海軍協同でのカルカッタ爆撃など。注目は、昭和18年4月18日の山本五十六長官機撃墜事件で、このときのパイロット小谷立飛曹長は、著者と同じ在ラバウル705空の小隊長であり、索敵当直の順番がひとつ違えば隣の小隊長であった著者搭乗の一式陸攻が長官機に抜擢されたはずであった。宇垣纏参謀の乗った2番機搭乗員の生存者の話を著者は聴取しており、撃墜時の様子がうかがえる。
 著者は昭和19年6月24日、玉砕寸前のグァム島から伊41潜水艦で脱出した。
「一式陸攻漂流記」大野新一郎(元山空・上飛曹)
 著者は電信員。レパルスに至近弾。在ラバウルで珊瑚海海戦。昭和19年3月、762空708攻撃隊に配属され、台湾沖航空戦に出撃。敵艦を雷撃後、乗機は海上に不時着。1週間漂流後、アメリカの駆逐艦に救助されて捕虜となった。
 敵艦隊の通信参謀はとても日本語が流暢で、762空が鹿屋を基地としていることも知っていたという。
「中攻隊のサムライたち」小西良吉(千歳空・少尉)
 著者は電信員兼射手。飛行時間5800時間。小西がいなければ小隊の電信射撃がガタガタになると請われてなかなか偵察員配置になれなかった逸話を持つ歴戦の中攻搭乗員。ラバウルでは酒豪のため麻酔なしで盲腸を手術されたがガダルカナル攻撃は16回を数え、珊瑚海海戦では敵の先行支援艦隊を昼間雷撃した。
 注目は真珠湾攻撃に連動した開戦時のウェーキ島爆撃。マーシャル郡島ルオット基地から出撃、著者の機は超低空の300メートルから250キロ爆弾を落とし、自身の爆弾の破片で操縦索を切ってしまった。
「私の戦場回想」中村友男(705空飛行隊長・中佐)
 商船学校出身の異色の中攻隊古参幹部。指揮官先頭の見本のような人物で、自身もパイロットのために指揮官として搭乗したときは副操縦士の席に座った。支那戦線で戦績を重ねたが、太平洋戦争ではミッドウェーの敗戦処理から現場に配属。以後、ラバウルの最前線でソロモン海戦、レンネル島沖海戦など中攻隊死闘の先頭に立った。
 非常に読み応えのある臨場感あふれる戦記であるとともに、戦後民間会社の労務課で骨を折った人柄あふれる偉ぶらない文章は、読み物としても第一級のものであると思われる。
「わが陸攻隊戦記」足立次郎(751空飛行隊長・少佐)
 96式陸攻の登場期から操縦していた経験を持つ陸攻のオーソリティ。横空実験部にも在籍しており、中攻のメカニズムや戦術を知り抜いている。横空で一式陸攻に燃料を満載し機銃掃射して耐久性テストしたときはたちまち燃え上がり。その一式ライターのあだ名に恥じない姿に三菱の技術者は目に涙をためていたという。
 戦争末期には人間爆弾・桜花で悪名高い神雷部隊で、海兵同期の野口五郎少佐と同じく飛行隊長として配属された。
 著者はこれしかもう戦うすべはないと思っていたという。著者の隊は出撃することなく空襲で全滅したが、基地が違った野口少佐の隊は桜花を抱えて出撃、空戦で全滅した。おそらく老練な野口少佐が操縦していたと思われる一式陸攻が長時間海面を這って最後の瞬間まで敵機の銃撃をかわし続けていたという話を著者は聞いている。




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