「会津執権の栄誉」佐藤巖太郎

 今年第157回直木賞の候補にもなった新感覚の歴史小説です。
 舞台を同じくした6篇の連作で構成されているのですが、それぞれの短編の発表時期はおよそ1年に1回ほど。
 冒頭の話が2013年、最後の書き下ろしは2017年ですから、なんと足掛け5年ですわ。
 珍しいですよねえ。
 歴史小説としての題材も珍しいというか、変わっているというか、会津の戦国武将・芦名氏に脚光を当てています。
 マイナーですわな。渋すぎます。信長の野望でもやっていなければなかなか思いつかないでしょ。
 芦名氏は会津守護として400年近く続いた名跡でして、第16代芦名盛氏のときに最大の版図を築き上げ、東北において伊達家と比肩する勢力を保ちましたが、家中掌握に苦労し、第18代盛隆は家臣に暗殺され、跡を継いだ幼い隆氏が病没するに及んで、男系の血が絶えてしまうのです。それで、残っていた第17代盛興の娘に婿養子を迎えるのですが、このとき佐竹か伊達のどちらから新たな当主を迎えるかで家臣団は紛糾しました。結局、家臣筆頭で会津執権の呼び名も高い金上盛備の一声で佐竹義重の次男義広が選ばれたのですが、重臣の猪苗代盛国などは露骨に反対していたそうです。
 まとまりのない家中は、新当主の義広が佐竹家から大縄義辰などの家臣を連れてきたことから、ますます関係が悪化し、北方の国境を接する伊達家の度重なる謀略を受けたあげく、天正18年(1589)摺上原の戦いで伊達軍に大敗し、芦名家は滅亡することになります。
 本作の最初の5篇はついに滅亡にまで至った紛糾相次ぐ芦名家家中を舞台に、最後の作品は芦名家を滅ぼして会津黒川城に入城していた伊達政宗の小田原遅参を題材にしています。
 筆致が鋭くて掘り下げが深いのが特徴で、確かに新機軸の歴史小説かとは思いますが、それほど面白いというわけではありません。歴史小説というより時代小説といいますか、時代小説の虚構エッセンスが強い短編もあります。
 金上盛備の大将補佐である白川芳正は実在した人物かもしれませんが、その下の沼崎喜左衛門は架空でしょう。
 少なくとも帯に喧伝されていた「怒りですべてを燃やし尽くす。これが戦国武将の正体だ」というような迫力はありません。
 ただ、本作の小田原での伊達政宗と豊臣秀吉のやり取りは、今までに読んだ歴史小説や大河ドラマの同じシーンよりも味わい深いものがありましたし、印象に残るものとなりました。
 次回は、長編でやってもらいたいですね。

「湖の武将」
 家臣筆頭である金上盛備の命を受け、新君主義広が連れてきた大縄、刎石らと譜代の重臣である猪苗代盛国の仲を取り持とうとする、富田隆実。猪苗代氏は、猪苗代湖の漁業や水運を司ってきた有力な家臣であったが、ゆえに気難しく誇りが高い。しかし隆実の心配をよそに当主の猪苗代盛国は佐竹家家臣の内政参加を許諾する姿勢を見せた。しかし、その裏には・・・
「報復の仕来り」
 旧来の芦名家家臣と新来の佐竹家家臣の内紛は収まらず、大縄義辰のお気に入りの家臣が何者かに斬られた。探索方を命じられた桑原新次郎は、組頭格松尾玄蕃を下手人と目星をつけるが、証拠がない。困っているところに、野村銀之助と名乗る浪人が事件を目撃したとやってくる。
「芦名の陣立て」
 ついに佐竹家の後詰を得た芦名家と伊達家の戦いが始まった。金上家大将補佐である白川芳正は、最前線にある伊達方の城・大平城の探索に赴いた折、大縄義辰主従の姿を発見し、戦陣での抜け駆けを警戒する。大縄は、由緒ある芦名家の陣立てなどハナから相手にしていない。傍若無人であった。白川が主人の金上盛備に注進したところ、盛備も対応に苦慮している。そんなとき、思いもかけないことに猪苗代盛国の伊達家への寝返りが報ぜられた。黒川城から五里しか離れていない猪苗代城に片倉景綱ら伊達軍2万3千が入城したという。
「退路の果ての橋」
 芦名と伊達の大一番。1年ぶりに足軽として徴用された小源太は、仙蔵とともに最前線の偵察に向かうが、待ち伏せにあい、仙蔵は怪我をする。味方とはぐれたふたりはやがて敵の伊達の小荷駄隊に遭遇、正体を隠してこれに紛れ込んだ。話を聞くうちに、この隊は日橋川の橋を打ち壊して芦名軍の退路を断つことが目的であることを知る。その橋は、かつて小源太も普請に参加したことのある橋だった。小源太は機会を見つけて脱走し、いち早くこの敵の計画を味方に報せようとするのだが・・・
「会津執権の栄誉」
 攻守は逆転し、芦名軍は伊達軍の前に総崩れとなった。四百年近く続く芦名の名跡、その芦名の執権という名聞。芦名中興の祖・第16代盛氏の頃から仕え、家中をまとめてきた金上盛備にも死が目前に迫っている。関白秀吉の惣無事令も眼中になく、奥州席巻への野望に突き進む乱世の奸雄・伊達政宗に、著しく家中のまとまりを欠いた芦名は敗れた。一瞬、奇跡のように空いた伊達本陣への道。盛備は側近の白川芳正に「わしの討ち死にを殿に伝えよ」と言い残し、政宗の首を取るべく伊達本陣に突撃する。
「政宗の代償」
 芦名を滅ぼして、会津黒川城に入城していた伊達政宗。しかし、惣無事令を無視された関白秀吉は怒っていた。小田原城攻めに遅参ながらも馳せ参じた政宗は、軟禁に近い形で沙汰を待つことになった。徳川家康や結城秀康から伝え聞くところでは、政宗の処遇は芳しい結果とはならないらしい。いざ対面となったとき政宗は、死を決意した白装束でその場に臨む。懐には2本の短刀を忍ばせていたが・・・


 
 
 
 
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