「かがみの孤城」辻村深月

 久しぶりに辻村深月さんらしい物語を読みました。
 面白かったです。
 結婚して東京に出てから駄作を連発していたように思ってましたが、「帰ってきた辻村深月」という感じ。
 昔の傑作群に似ている匂いがする。
 しかも、昔だとどこか文章が「ねっちょり」としてましたが、これはさっぱりと読みやすい。
 まだ若いですし、ある程度コンスタントに作品を出せる方ですが、現時点で代表作と云えるかもしえません。
 「名前探しの放課後」も面白かったですが、あれは他の作品を予習していなければ面白みが半減しますから。
 こちらは、おそらく独立した作品で登場人物の繋がりはないと思いますので手に取りやすいですね。
 ジャンルとしては、FTミステリーでしょうか。
 真相は最後までわからない(ひょっとしたら女子ならば前半で“城”の謎に気付く方もいるかもしれない)ですし、オオカミさまの真相を知ったときには、思わず目から少なからぬ水が出ました。ああ、あの苦しいときにやってたんだと思って。
 ああいうとこ書くのは、この人は昔から巧い。
 かわいそうだけどねえ。
 あれはさすがの恩田陸でも書けません。辻村深月という作家、まあ、直木賞もとったし格として師匠の綾辻行人を若干超えたような気もしますが、この方の存在価値を改めて知らしめる作品になったと思います。

 簡単にネタバレなしのあらすじ。
 南東京市にある雪科第五中学校に入学したばかりの、安西こころが主人公。
 ところが、はやくも4月から彼女は学校に行けなくなりました。
 大きな小学校からやってきた学年の中心人物の女子にイジメを受けたのです。
 近所に引っ越してきて仲が良かった女の子も、手の平を返したようにこころの元から去り、精神的なダメージを受けました。両親は心配し、フリースクールへ通うことを勧めるのですが、今のところこころの心はネガティヴなままで、学校どころか買い物に出ることさえおぼつかないのでした。
 いつものようにこころを残して、共働きの両親が家を出たある日のこと。
 突如、こころの部屋にある大きな姿見の鏡が光ったのです。不思議に思って近づいたこころの鏡に触った手は水のように鏡の向こうに飲み込まれ、そのままこころは身体ごと鏡の中に入ってしまいました。
 びっくりして目を開けたこころが見た世界、そこはなんとおとぎ話に出てくるようなお城の中でした。
 そして、かわいいワンピースを着て狼面をした少女がこころに語りかけてきたのです。
 実は、こころは一度逃げてしまいます。鏡を逆に通って、自分の部屋に戻ってきたのです。
 しかし、彼女は再び鏡のなかのお城に戻ることになります。
 そして、今度はお城には狼面の少女だけではなく、中学生の男女が6人いました。
 見栄えがよく先輩格のアキ、イケメンでハワイにサッカー留学しているリオン、ゲーマーで家からゲーム機を持ってきたマサムネ、ハリーポッターのロンに似ているスバル、食いしん坊で恋愛至上主義のウレシノ、ピアノのうまい地味なフウカ
 彼らは、こころと同じように学校に行くことができない中学生の男女でした。
 こころを含めて全員が揃ったところで、狼面の少女=「オオカミさま」よりこの不思議な世界の説明が始まります。
 「よくぞ来たな、赤ずきんちゃんたち。これからお前らには、この城のなかでゲームをしてもらう。そのゲームとは『願いの叶う鍵探し』。この城のどこかに願いが叶う鍵が隠されている。その鍵を探し出したものは、なんでも自分の願うことをひとつだけ叶えることができる。ただし誰かが鍵を見つけて願いを叶えたならばここにいる全員の記憶は消える。期限は今日から来年の3月30日まで。お前らの部屋と城をつなぐ鏡の開く時間は9時から5時。気分次第で来ても来なくてもかまわない。ただし、5時を超えて城に残っている者はオオカミに食われるから、そのつもりで。わかったか?」
 こうして、こころたち7人の謎に包まれた不思議な11ヶ月間が始まったのでした。

 はい、ここから少しネタバレ満開。
 本当の意味での主人公は、こころではなく、オオカミさまです。
 彼女の世界なのですから、彼女は誰かということ。
 私が一番好きなシーンは、クリスマスにリオンが母の作ったケーキを城に持ってきて、オオカミさまに渡すところ。
 あそこは読み返しましたが、意味深でしたねえ。読み終わってから振り返るべきポイントです。
 「あれ、このときから彼女の正体がリオンにはわかってたのか?」と思って、実はケーキとは別に家から持ってきた包みをリオンはオオカミさまに渡しているのですが、どこを読んでもそれが何だったのかわからないのですよ。読み落としてるのかな、私が。
 城には電気はきていますが、水やガスは通っていません。トイレもありません。
 はじめは謎だったけど、この設定はよかったです。
 作者に子供がいるのか知りませんが、ひょっとしたらそこで思いついたのかもしれません。ならば女の子かな。
 パラレルワールドという空間ではなく時間軸がオチだったというプロットもさすが。ありそうで新鮮でした。
 大変、楽しめました。辻村深月復活。
 ですがこの物語は、辻村さんというよりもあくまでも実生ちゃんが作った物語として読むべきでしたね。
 実生ちゃん、ありがとう。
 

 
 
 
 
 
 
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この記事へのコメント

- ひだまりさん。 - 2017年07月08日 20:21:11

お疲れさまです。
良かったです、引かれなくて(*^^*)
最後は私も泣いてしまいました。

「包み」 は私も見逃していました。
中身、なんでしょうね。
それにしてもオオカミさまの正体にはビックリです。
さすがですよね(*^o^*)

Re - 焼酎太郎 - 2017年07月09日 09:32:29

お疲れ様です。
もうほんと、四国は蒸し暑さが尋常じゃなくて
私も猫もへなへなですわ。
わけのわからんでかい虫みたいなの出て来るし
もうほんとリアルパーサーカー状態ですわ。

「包み」は、だいぶ読み返したんですが、わかりませんでしたね。
ひょっとしたら、作者が伏線の回収を忘れていたのかもしれません。
リオンが家から持ってきたとわざわざ書かれていましたから、
クリスマスだったし、手紙かなと思ったんですが。
あの時点でオオカミさまに手紙ってそれもおかしいなあ、ならば
リオンはオオカミさまの正体に早くから気づいていたんじゃないかと思ったんですよ。
でも、ちょっとおかしいな、やはり。忘れますわ(笑)

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