「天を灼く」あさのあつこ

 これは想像以上に面白かったです。
 しっかりと時代小説の分野にも根を下ろした、あさのあつこの時代冒険小説の新シリーズですね。
 言い回しや考証ともども申し分なし。物語ももちろんリズミカルで楽しい。
 重苦しくないのが肩が凝らなくていいんです。
 主人公の境遇が悲惨でも希望があるというか、明るい。
 読みながらこっちも前を向けるというか、きっと何とかなるだろう、助かるだろうと思えるわけですよ。
 水戸黄門的なものなんでしょうけどね、これけっこう快感なんですわ。
 まあ、まだ一作目なのでこの先わからないんですけどね。
 たぶん、なんとかなるでしょう。
 どれだけ苦境が待っていても、まあ、死んでほしくないキャラも多少は死ぬかもしれませんが、最後にはめでたしめでたしという、時代劇的予定調和な幕引きを願っています。
 ひとつ心配なのは、この作家にありがちなシリーズをダラダラと伸ばしてゴールが見えなくなるということですが、この作品はあんがい父の死の謎を解くという目的がはっきりしているので、3作くらいでパシッと終わるんじゃないですかね。
 弥勒シリーズも抱えていますからね。ややこしくなっていくのはご免ですわ。

 簡単にあらすじ。
 舞台は江戸時代、天羽藩6万石。
 主人公は元服前14歳、天羽藩士の家の嫡男である伊吹藤士郎。
 父の伊吹斗十郎は、大組組頭5百石取りで、執政入りを噂されている天羽藩上士の家柄です。
 ところが、20日前に突然、登城中に父が罪人として大目付の配下に捕らえれてしまったのです。
 市中の商人から賄賂を受取り、その便宜を図った疑いがかけられたのでした。
 藤士郎はもとより、母の茂登子、嫁いだばかりの姉の美鶴ら伊吹家家中が、父の潔白を信じながらも気もそぞろになる中、斗十郎は牢屋敷に送られ、なんと切腹を申し付けられてしまいます。
 牢屋敷で父の世話をしていたという柘植左京という若い侍に導かれ、藤四郎は父に人目会うべく牢屋敷に忍び込みます。
 そこで待っていたのは、すでに死装束に身を固めた父の姿でした。
 藤士郎の問いに多くを語らず、父は真相を告白することを避けたまま、藤士郎におのが佩刀を形見として託し、切腹の介錯を務めるよう命じたのでした。
 何があっても生き抜き、父の潔白をいつか証す。涙ながらに藤士郎は誓いを立てます。
 伊吹家は、家禄を20分の1に減じられ、屋敷は没収され、山村へ所払いとなりました。
 嫁ぎ先から離縁された美鶴、母の茂登子、ただひとり残った老僕の佐平、そして望まぬ形で伊吹家の当主となった藤士郎の4人は、父の遺命で一家を助けるという柘植左京、そして藤士郎の学友であり剣友である風見慶吾、大鳥五馬らの助けを借りて、慣れぬ田舎暮らしに貧しいながらも根を張って生きていこうとします。もちろん、伊吹家の再興を信じて。
 父はなぜ死ななければならなかったのか。なぜ、あんな死に方を選んだのか。
 そして、生活していくうちに藤士郎の胸の内に湧き上がった疑問、本当に父は罪を犯していなかったのか?
 そうした思いは、父の死の原因となった藩政と商人の癒着を暴く冒険者として刺客を呼び寄せ、真の藩政改革という嵐の中へと藤士郎を誘っていくのです。
 天羽藩きっての豪商だった出雲屋嘉平と家老たちの密通を証す書簡は、はたしていずこに・・・

 今後のために次でカギとなりそうな登場人物をメモしときます。どうせ忘れるのでね。
 吉岡継興 天羽藩藩主。23歳の若さながら英明と噂されている。
 四谷半兵衛 藩主継興の側用人。藩内の汚職を暴くために斗十郎に内偵を命じたとされる人物。在江戸。
 川辺陽典 次席家老。天羽藩随一の実力者。出雲屋と通じていた疑惑がある。
 津雲弥兵衛門 筆頭家老。齢60を超えた毒にも薬にもならない人物とされているが・・・はたして?
 御陰八十雄 天羽藩きっての学究で塾頭。斗十郎の親友だったが狷介な変人。藤士郎は彼に書簡を託す。


 
 
 
 
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