「暗闘」山口敬之

 安倍政権の外交・安全保障の裏側を描いた傑作ノンフィクション。
 2016年11月17日の、世界を驚かしたトランプ次期大統領との会談はなぜ実現したのか?
 様々な国からの会談ラブコールを断って、多忙なトランプが安倍ひとりを選んだ真の理由とは?
 2016年12月に来日したプーチンとの日露交渉の、本当の真価とは何か?

 まあ、安倍晋三の支持者の方も不支持の方も読んでおいて損はない本。ためになる。
 著者は最近色々と噂のある人ですが、そんな確定していないことで人も本も評価してはダメだと思います。
 そりゃ、はっきり言って出会い系バー行きを公言したボラみたいな顔した元文部科学事務次官とは違いますよ。
 権謀術数といいますか、最近の安倍政権への攻撃は誰かが音頭をとっているのでしょうが、見ていて痛々しい。
 まあ、本書にも音頭を進んでとっていそうなグループのことも書かれていますけどね。
 そういう私は安倍政権は80%支持、外交・安全保障に限っては95%支持です。

 何が琴線に触れるかって、私は「日本はなぜ戦争をしたのか」の研究をライフワークにしていますが、戦後感がまったく安倍さんと同じです。つまり、太平洋戦争の敗戦で発生した多くのわだかまりや矛盾に正面から向き合わず、その結果多くの歪みが内外に残ってしまったと安倍さんが考えること、その通りだと思います。敗戦という史実に正面から向き合わずに放置してきたさまざまなツケが、グローバルでは当たり前の国家と社会の形成を阻害しているのです。
 いまだ敗戦が続いてるのですよ、日本は。もはや戦後ではない、など嘘です。見てみなさい支那を朝鮮を。
 歴史教科書的俯瞰でもって時代を見るならば、日本の敗戦期はあと少なくとも50年は続くと思います。
 ようやく新しい価値観で外国との付き合いができるのは、それ以降になると思います。
 それまでは、理不尽なことや挑発的なことをされてもじっと辛抱していなければなりません。怒っても損するだけです。
 そんな国なんです、日本は。普通の国ではないんですわ。
 そんないわば敗戦処理期に、マウンドに上がってなんとか好投しているのが安倍晋三なわけです。
 日露交渉で日本が巨額の投資をロシアに対して行うことを、さも騙されたように言うバカがそこらへんにたくさんいますが、安倍さんの本音は領土交渉というのは武力以外に解決しようがないということをわかっているのです。
 領土問題なんて、実効支配したもん勝ちに決まってるじゃないですか。
 でもそんなことを言えば、左翼のおばはんが卒倒しそうなほど騒いだりね、自衛隊は暴力装置なんていう支那人のスパイのようなクソ左翼政治家がいる国ですから、しごく当たり前のことが通じないときてる。
 北朝鮮にミサイルを撃ち込まれるかもしれないのに、平和という念仏を唱えれば左翼のおばはんは助かると思ってるの?
 安倍さんの本音は、
 ・日本は中国とロシアという二つの大国と同時に対峙することはできない
 ・軍事的にも経済的にも、ロシアの脅威は中国よりはるかに小さい

 ということです、ですから、家に例えれば両隣と喧嘩は同時にできないわけ。味方と言わずとも敵にならなければいわけ。ですから、ハナから北方領土返還交渉ではなく、新しい日露関係の幕を開けようではないかということをしているわけです。具体的に言えば、日露平和条約の締結に向けてですね。
 中国とロシアが手を組んで日本を半分に分けるか?  なんて話が絶対にないと言いきれますか?
 それでも日露交渉の意味がわからない、北方領土返さへんのやったらロシアなんかほっとけやいう人は、「平和平和」の念仏でも唱えていればいいんじゃないですかね。

 ただ、アメリカについては本書を読んで驚いたこと、知らなかったことが多かったです。
 アメリカの大統領選において外務省はクリントンの圧勝を予想していましが、それでも“もしや”のためにトランプ陣営とつなぎを付けていたのですね。知りませんでした。新聞を読んだ限りでは日本側からトランプ陣営に何のアクションも起こしていなかったように聞いてましたから。違うかったんだ。クリントンの表敬訪問を受けた2016年9月、トランプ側と全く接触しないのは不適切として、安倍さんは後に商務長官となるウィルバー・ロスと極秘で会談しています。また、司法長官となるジェフ・セッションズ上院議員やトランプの家族にも念入りに根回ししていたそうです。ですから、あの世界初会談が実現したのですね。
 何かと外交が弱いと言われてきた日本ですが、安倍さんが官邸に国家安全保障局を設置して以来、頑張っています。
 会談の内容は一切、公表されていませんが、著者は会談の2時間後、安倍さんと電話で話したそうです。
 どんな感じだったのか? 本書を読めば雰囲気はわかるかもしれません。
 選挙期間中は日本との安保を見直すと吠えていたトランプでしたが、すっかりおとなしくなりました。
 それは、
 ・在日米軍基地は在韓米軍基地と違って日本だけを守っているのではなく、アジア太平洋地域から中東まで幅広い範囲をカバーしていること。
 ・在日米軍の駐留費用については、日本側は相当なボリュームを負担しており、同等の兵力をアメリカ内で維持するよりもアメリカ側の負担は少ないこと

 を、トランプ陣営に力説したからです。
 アメリカ内にいさすよりも、日本に置いていたほうが安い。これは経営者であるトランプへの殺し文句になったことでしょうね。

 苦しい時のほうが多いと思います。少々の失点が許される勝ち抑えと違い、敗戦処理は簡単ではありません。
 でも、安倍さんは日本の敗戦処理を一手に引き受けながら、同時に未来への展望も開こうとしています。
 いま見限ってはいけません。あとしばらくは、黙って応援しようと思います。


 

 
 
 
 
 
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