「モルフェウスの領域」海堂尊

いきなりですが、どうして日比野涼子がコールドスリープに入ったのかわからないままでした。
アツシのことを考えてモルフェウスシステムを守るため、かなわない恋に疲れた自分の記憶を消すため、いろいろ考えられるのでしょうが、いまいち釈然としません。納得できないですね。
素材は素晴らしい、海堂尊の科学者らしい着眼点はさすがであると思いますが、残念、作者に小説家としての技量が足りません。もったいないストーリーです。たとえば東野圭吾ならこの物語をとっておきのエンターテインメントに仕上げたかもしれませんよ。

お話は2010年10月から2015年6月まで。
物語的には「ナイチンゲールの沈黙」と「医学のたまご」(カテゴリー医療小説・ミステリー参照)のあいだの時代の話です。
「ナイチンゲールの沈黙」では佐々木アツシは9歳、「医学のたまご」ではたしか17歳くらいだったと思います。
本作「モルフェウスの領域」では彼は9歳+5、14歳です。なぜ9歳+5かというと、彼は五年間、コールドスリープという一種の“凍眠”の状態におかれていたのですね。題名のモルフェウスというのはギリシャ神話の眠りを司る神の名です。
なぜ佐々木アツシがそういう状態におかれていたかというと、網膜芽腫が残った片目にも発症し、近い将来に治療法の確立されることを見越して5年間の凍眠に入ったのです。
その場所は桜宮市の未来医学探求センター。非常勤職員の日比野涼子が凍眠中のモルフェウスの維持管理を任されていました。彼女は5年間世話しているうちに、ある種の感情を抱くようになってしまうのですね。これはわかる気がします。
モルフェウスにも色んな問題が出てくるのです。生きた人間を凍らせてまた蘇らせるというのですから当然でしょう。予算、法律、アツシの人権、官僚の壁などです。涼子は微々たる力ながらこれらに立ち向かおうとするのです。
もちろんかつてアツシの面倒をみた如月翔子(現小児センター看護師長)、田口も登場しますが、浜田小夜はまだ刑務所に入っているようですね。「ジェネラルルージュの凱旋」のダジャレのつまらない佐藤伸一(東城大学医学部総合外科統御学教室)はアツシを蘇生させる役目を負って登場します。
そして忘れてはならないのは渡海。「ブラックぺアン1988」は彼の物語であったと云っても過言ではありませんでした。彼は日比野涼子の子供時代、アフリカ赴任の思い出の中に登場します。どうやら日本を離れて海外の領事館で医務官をしていたようです。
で、始めに申したとおり感想は中途半端なものになりましたが、もう何年も前、アメリカではこれに似たようなことを実際にやっていたはずです。もちろん、本作のような空想科学的なものではなく、死体を凍らせて保存し未来の科学技術によって蘇らせてもらおう、というものだったと思います。気持はわかりますが、ほんとうに目が覚めたとき怖いような感じがしませんか。
涼子のセリフで「記憶を喪わせるのはその人を殺すことと同じ」というのがありましたが、その通りだと思いました。私という名前の人間が生きているのはその名前のもとに積み重なった記憶があるからです。

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