「空母『蒼龍』とともに」池田清夫

 中型空母「蒼龍」のベテラン飛行機整備兵による戦記。
 著者の池田清夫さんは、大正5年宮城県南郷村出身。終戦時海軍整備兵曹長。海軍生活11年3ヶ月。

 母艦の整備兵による戦記は非常に珍しいかと思います。
 著者が海兵団を出たのが昭和9年ですが、勤務先の海軍通信学校で分隊士から「これからは航空の時代だ。大砲の時代ではない」と諭され、砲術学校への進学を諦めて霞ヶ浦空の普通科整備術練習生になったそうです。
 支那事変で初めて空母「蒼龍」に配属されてから、一度陸上勤務を挟んで再び真珠湾攻撃の前に「蒼龍」に呼び戻され、それからミッドウェーで沈むまで「蒼龍」と共にあったあったわけですから、大げさでなく本のタイトル通りの海軍生活でした。
 一度目の「蒼龍」勤務では、安慶基地で横山保大尉や羽切松雄兵曹のいた戦闘機隊の飛行機員を担当、2回目では江草少佐率いる艦爆隊を担当しました。飛行機員というのは、同じ整備員でも分解組み立て等の大整備と違って、毎日の飛行作業前後の点検整備等を行い、搭乗員が支障なく飛行できるように作業をこなすのを任務としています。
 昭和13年11月に念願の下士官(三整曹)となり、昭和15年5月には24歳で二整曹に昇格していますが、陸上勤務していた霞ヶ浦空や土浦空では、母艦乗組経験があるということで一目も二目も置かれていたそうです。
 そらそうだわな。曲者ぞろいの艦隊戦闘機隊を担当してたんだから、怖いものないよねえ。
 本書の特徴としては、あまり自分の経験した戦闘を資料を調べて肉付けしておらず、あくまでも自分の記憶に素直に書かれているということが挙げられると思います。自分史の一面もあり、海軍を志願するまでや逆に戦争が終わってからの生活についても多くのページが割かれているのは珍しいですね。

 整備兵らしい興味深いエピソードもありました。
 真珠湾攻撃に向かう前、飛行機のエンジンを温める特大の白金懐炉が60機分積載されたそうです。
 このことから北方攻撃に向かうものと著者ら飛行機整備兵は思い込んだそうですが、敵を欺くにはまず味方からということでしょうか。その頃は海軍も兜の緒が締まっていたのですね。
 逆にミッドウェーでは緩みきっていました。慢心です。
 「蒼龍」が致命傷となる爆撃を受けた時、著者は飛行甲板サイドの待機所にいました。
 格納庫にいたら確実に死んでいたそうです。航空機の爆弾や魚雷に誘爆しましたからね。
 海に放り出された著者はサメのいる海で6時間漂流することになります。
 ちょうど昼飯前に攻撃されたので、空腹と疲労と寒さで、救助艇が「いまいくぞ頑張れ」ときたときには自力で船に上がる力は残っていなかったそうです。このときの模様は詳述され、海で漂流していたときに、駆逐艦に向かって泳いでいったやつはみな死んだと書かれています。体力を温存して最小限の力で水に浮いていることだけをしたやつは助かったと。

 ミッドウェー海戦後、幸運にも著者が艦隊に戻ることはありませんでした。
 艦隊に戻らされた「蒼龍」の整備兵たちは、ほぼ生きて帰ってくることはありませんでしたから。
 おそらく、運だけではないと思います。
 長年海軍のメシを食ってきた実力も多大に関与したのではないでしょうか。人柄といいますか。
 整備だけではなく、海兵団で教員にもなっていますからね。
 郡山航空隊分隊士で終戦。



 
 
 
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