「最後の二式大艇」碇義朗

 日本海軍飛行艇戦記・戦史の総まとめとでもいうべき本。
 川西航空機で飛行艇設計の第一人者だった菊原静雄さんと著者の対談の記事もあって貴重。
 私はこれまで、
 「二式大艇空戦記」長峯五郎、「最後の飛行艇」日辻常雄、「奇蹟の飛行艇」北出大太、「予科練の空」本間猛、「炎の翼『二式大艇』に生きる」木下悦朗・日辻常雄・佐々木孝輔ほか(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)の、5冊の飛行艇が関連する戦記を読んできましたが、本書はおさらいかつ完結編という意味合いで読みました。
 ひょっとしたら、本書を最初に読んでおくほうがよかったかもしれません。
 昭和初期のイギリスやドイツの飛行艇を真似ていた頃から、太平洋戦争終戦後「日本は戦争には負けたが飛行艇技術では世界に勝った」と米海軍に言わしめた傑作飛行艇・二式大艇の制作苦労とその活躍、さらには戦後の新明和工業(川西航空機)に生きる飛行艇設計の遺伝子まで、飛行艇についてだいたいのところがこれ一冊で知れる良本です。
 冒頭の日辻常雄少佐(詫間空飛行隊長)による最後の二式大艇輸送(昭和20・11・11米軍へ引き渡し)、橋爪寿雄大尉による第二次ハワイ空襲、梓特別攻撃隊の先導、昭和20年4月の「晴空」によるブイン強行輸送などは、これまでに読んだことがありましたが、昭和18年11月の、玉利義男大尉機によるマキンからフェニックス諸島カントン島への1200海里偵察行で敵戦闘機3機と激しいバトルを繰り広げて230発も被弾しながら帰投した逸話は初めて読みました。
 あんがい、防弾をしていて燃料タンクもゴム張りだったし、二式大艇はタフだったようです。
 また、二式大艇のポーポイズ運動(離水中イルカのように上下に跳ねてしまう危険な所作)についても、その原因と対策がしっかりと詳述されていました。なぜ戦争中にここまでわかっていたのに事故が相次いだかというと、最前線の現場にまで制作側の情報が伝わっていなかったためだそうです。
 もっとも、エンジンの油漏れや燃料系統のガソリン漏れなど、日本の基礎的な工業力はアメリカに大きく劣っており、二式大艇にも艇体が水漏れするという情けないような欠陥があったそうです。
 
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 今まで読んだ飛行艇戦記で載っておらず、本書で知って面白かったことはやはり制作秘話でしょうね。
 川西航空機と中島飛行機は色々因縁があった間柄ですが、13試、つまり昭和13年度の海軍試作機において制式採用を争うことになったのが、川西の13試大艇と、中島の13試大攻(大型攻撃機)でした。
 川西は昭和13年1月に制式採用された97式大艇が基礎としてあったので、海軍側の要求はハイレベルなものでしたが(最高速度240ノット、巡航速度160ノット、航続力4千カイリなど)、なんとかその要求に応えて世界的に傑出した飛行艇である二式大艇の製作に成功したのです。一方、中島は海軍側からアメリカのDC4を基本とするように実物を渡されたため、その枠から抜け出せずに苦労しました。さらにはアメリカが日本に売りつけたDC4の設計図は失敗作でした。こんなこともあり、中島の「深山」は失敗の烙印を押され、海軍の大型攻撃機は陸上の基地を必要としない二式大艇の量産に決定したのです。
 大戦中、二式大艇は130機が生産されました。
 九七式大艇179機、同輸送艇36機、晴空36機と合わせて川西航空機は381機の飛行艇を生産しました。
 そしてその伝統は、それほど間をおかずに、戦後も海上自衛隊の飛行艇を生産するという形で続くことになります。
 つい最近、インドへ輸出することになった救難飛行艇US-2も、元はといえば九七式、二式という大艇が元になっているのです。その経験がなければ、ヨットで遭難した辛坊さんも救助できずに死んでいたかもしれませんねえ。
 川西龍三と若い技術者たちで作り上げた夢見るヒコーキ野郎の高い理想主義は、無駄ではなかったのですよ。
 それに比べ、三菱のMRJがミス続きなのは、技術に連続性がないからではないでしょうか。

 一人へり 二人へりして また三人
 何れの時ぞ われの番なる

 (相沢達雄中佐・東港空飛行長の辞世の句。飛行艇によるアンボン島雷撃作戦出撃中殉職)


 

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