「淵に立つ」深田晃司

 家族3人は幸せだった。
 ある年の夏の終わり、あの男が街に帰ってくるまでは・・・


 これもかあ、最近、映画監督の初小説というのが多い気がしませんか。
 もちろん、映画前提の小説ですね。
 明らかに、小説家の書いた小説とは、雰囲気がまったく違います。
 同じ文章のようで、同じ構成に見えるのに、どうしてこれだけ作品を読んで受ける感じが違うでしょうか。
 私は、小説家の小説に慣れているので、どこか違和感を感じます。
 逆に、あまり小説を読まない方ならば、本作の方がすっと頭に入ってくるかもしれないなあ。
 もっとも私が感じた違和感の正体はおそらく、不条理すぎる展開かもしれませんが・・・
 黒澤明監督が「映画監督になるなら小説が書けないと」と言ってたそうですが、創作方法が異なるかもしれないですねえ、映画監督ならば映像の文字化という基本姿勢は避けられないのではないですかね。
 一方、たまに小説家の言っているのを聞くと、文章を書きながら映像は頭に浮かばないという方もいらっしゃいます。
 文字を練るというか、活字の連なりが固まってひとつの作品になるという感じでしょうか。
 小説を書く時に、映画化を考えていることもあまりないでしょうしね。
 映画化という前提がありきの映画監督による小説との違いは、あってしかるべきでしょう。
 映画と小説のニコイチセットという楽しみ方もあるわけですし。
 本作の場合、私はトレーラーを観ただけですが、本に忠実なような気がしました。
 映像化にあたって原作から大幅に変更され、ブーブー言っている小説家の話もよく聞きますが、当然ながら映画監督が小説を書いて映画にするんですからそういう齟齬もおきません。
 自家生産なわけですよ。

 簡単にあらすじ。
 夫婦で金属加工業の町工場を営んでいる利雄と章江。生活はつましい。
 利雄は食事と寝る時以外は大半を工場で過ごし、夫婦の会話は大半が事務連絡である。
 一人娘の蛍は9歳。
 章江と蛍はプロテスタントの信仰を持ち、蛍はオルガンを習っていた。
 おおむね幸せで、波風立たぬ平穏な生活。
 しかし、ある年の夏の終わり、利雄の昔なじみの男が帰ってきてから彼ら一家は大きく破綻する。
 その男、八坂章太郎。映画では浅野忠信が配役、ベストキャスト。
 八坂は、人を殺して11年間刑務所にいた。
 1ヶ月後に山形の農園で仕事を始めるまで、利雄の工場で住み込みで雇ってくれという。
 章江は反対したが、利雄はすんなり受け入れた。それにはわけがあったのだが・・・
 当初、八坂の過去を知らなかったとはいえ、見知らぬ居候の闖入を快く思っていなかった章江だが、蛍にオルガンを教えたり、毎日の行動を見るにつれ、心を開いていく。
 しかし、刑務所という閉鎖社会を出てシャバの雰囲気に慣れてきたころ、八坂は隠して持っていた牙をしだいに見せ始める。

 まったくどんな話か知らずに読んだので、展開の急にびっくりしました。
 どっちかというと、前科者の更生をテーマにしたヒューマンドラマかと思っていたのでね。
 本当に、驚きました。
 まあ、そこまでは眠気も覚めて良かったのですが、いかんせん、犯罪サスペンスとしては雰囲気がゆるい。
 ヒューマンドラマにしては、ことが乱暴すぎる。
 小説という作品としては、どっちつかずだと思いました。
 妙に文学的なところもありますし、まったく描くべきところを描いていないような気もします。
 利雄と八坂の関係については、もっと文章が必要だったと思いますね。
 そして、展開が不条理であるのはいいのですが、ちょっと不条理すぎないでしょうか。
 山上貴史がまったく事件を知らなかったというのは、どうなんだろう。
 小説家ならば貴史が父の犯行を知った上で潜入したという、さらに気色の悪い怖気を振るう構成もあり得たかもしれません。
 まったく知らずに息子がやってきて、すぐに9年間不明だった父の所在が見つかるというのはねえ。
 映画ならば長くて2時間ですから、それだけ展開を早くしなけりゃならないのか。
 ひょっとしたら私が感じた齟齬は、それが正体だったのかもしれません。
 メトロノーム、の問題ですかね。


 
 
 
 
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