「海軍魂 若き雷撃王村田重治の生涯」山本悌一朗

 「さあ、いくぞ!」
 愛機九七艦攻は海面スレスレの高度を保ち、速力130ノットの水平直線飛行にうつった。
 それは、まるで弦を離れて空を截る1本の矢であった。
 村田少佐の視界いっぱいに、戦艦ウエストバージニアの巨体が、ものすごいスピードで飛び込んできた。
 「用意!」「てッ(発射)!」
 その瞬間、村田機はひょいと浮き上がり、発射された「91式魚雷改2」は、浅く短い真珠湾の水中を、敵艦に向かってものすごい速力で疾走した。


 海軍航空きっての雷撃のエースであり第一人者だった村田重治(しげはる)少佐の生涯を描いた戦記。
 村田重治少佐は明治42年4月、長崎県生まれ。海兵58期(入学時133名)。
 貴重な資料を細かく調査して、開戦劈頭の真珠湾までの苦労と活躍から、ミッドウェーの仇を討つべく臨んだ南太平洋海戦での壮烈な死まで、雷撃に生き雷撃に死んだ村田重治の34年の人生を真摯に追っています。
 読んですごく理解が深まったと思うのは、南太平洋海戦で空母ホーネットに雷撃後戦死するまでの流れですね。
 ほとんど決死のつもりだったんですね。ミッドウェーでの大敗北、一番長く乗っていた赤城が撃沈された恨みを晴らすことだけを強く願っていたのだと思います。この方らしい一本槍といいますか、筋の通し方だったんだろうなあ。
 すこぶる頭のいい方なので、あれで「日本は負けるな」ということがわかっていたのかもしれません。
 淵田美津雄中佐が真珠湾でやったように、航空隊の総指揮官として南太平洋海戦に臨んでいますからね。
 同じ艦攻でも淵田中佐は水平爆撃ですが、村田重治は雷撃ですから、死ぬ確率は全然違います。
 このことは、本書を読んで初めて知ったことですが、真珠湾奇襲の編成表でも村田少佐が統率する雷撃隊が特別攻撃隊と書かれていることからわかります。真珠湾のときも雷撃がうまく行かなければ体当たりする気持ちだったのでしょう。成功の効果が甚大なかわりに、それくらい雷撃は危険なのです。
 戦死前に故郷に送った手紙には、2歳で亡くした愛娘を忘れるために南方から持ち帰ったサルのモン君へのメッセージなども書かれていますが、自分が死ぬこと、二度と両親や妻、モンに会えないだろうことをわかっていたのだと思います。
 ラストで著者も書いているように、それが海軍少佐村田重治の軍人としての生き方だったのでしょう。

 水深わずか12メートルしかない真珠湾での雷撃奇襲は、この人の浅海面魚雷発射の実験研究がなければ成功することは決してなかったと言われています。
 考えたら、大陸戦線のほうは支那が軍艦なんてもっていませんから、雷撃なんてする機会はなかったのですよ。
 真珠湾奇襲は、日本海軍航空隊にとって初めての実戦での艦船雷撃だったわけですね。
 もちろん爆撃隊も活躍しましたが、爆弾ではなかなか戦艦なんて沈みませんからねえ。
 改めてこの人の凄さというか、「海軍航空に村田あり」と云われる所以がわかったような気がしました。

 以前読んだ零戦パイロットの原田要さんの本に、原田さんの教官だった村田少佐の印象が書かれてました。
 あんまりおとなしかったので、後になって「あのオッサンが有名な雷撃王の村田少佐だったのか」と知ったなんて書かれていましたが、海軍航空の世界では、村田少佐は春風駘蕩な仏様のように穏やかだということで、「ブツ」と渾名されていたそうです。
 けっして大声を出さず、怒らず、威張らなかったそうです。また、恐れをしりませんでした。
 珍しいですよね。将校は怒ったり威張って大事なときは逃げるのが仕事みたいなもんですから。
 ですから村田少佐は、上司からは信頼され、同僚からは愛され、部下からはこの上なく慕われました。
 死んだのが惜しい人だったと思います、惜しい人ほど死に急ぐものだと改めて思いました。
 他にも上海の13空時代に体験して大問題になったアメリカ砲艦パネー号誤爆事件の真相を、浪花節の浪曲に見立てて披露していたことが、海軍兵学校同期で仲の良かった中島正の証言と写真付きで紹介されていました。
 ちなみに「パネー号事件」は攻撃隊に同じく同期の奥宮正武もいましたし、くだんの原田要も戦闘機隊で参加しています。
 他の戦記にはない切り口があって、いい本でした。
 やっぱ指揮官は先頭じゃなけりゃね。

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