「青春天山雷撃隊」肥田真幸

 「我らは、特攻隊にあらず!」
 夜間雷撃専門部隊として終戦まで戦い続けた、ヒゲの青年雷撃隊隊長の貴重な青春戦記。
 
 著者の肥田真幸さんは、鹿児島県出身、海兵67期。
 同期には、ラバウルのリヒトホーフェン笹井醇一中尉など。豊田穣や鴛淵孝の一期上になります。
 この方、飛行学生卒業は戦前のことですが、ずっと内地で教員配置に就いており、やっと実戦配置となったのは、昭和18年7月でした。なんとも遅いですね。同期の零戦隊長・笹井醇一はもう、とっくに死んでいます。無論、前線配属が遅いからといって実力がないわけではありません。死ぬのが早くなるか遅くなるかの違いです。
 もっとも、著者はしぶとく死線をかいくぐって生き残り、戦後は自衛隊の幹部になっています。

 戦争中の略歴を簡単にまとめると、著者の本筋は海兵卒業の雷撃機操縦者として、雷撃隊の飛行隊長が本職です。
 初めて実戦に配備された331飛行隊(スマトラ島沖サバン)、551空(スマトラ等コタラジャ)、トラック基地の攻撃251飛行隊、内地に帰ってからの601空162飛行隊は珍しく旧式零戦(21)を使用しての戦闘爆撃隊でしたが、すぐに601空艦攻隊、そして昭和20年から終戦までの攻撃254飛行隊と、ほぼすべて著者が指揮官先頭の飛行隊長を務めています。
 初めての331飛行隊(戦闘機・攻撃機混合)は、戦闘機隊のほうの隊長が有名な新郷英城少佐であり、このときだいぶ勉強をさせられたようです。インド洋を睨む航空隊ですから、勉強する暇があったということでしょうね。
 陸軍のビルマ作戦に呼応するような海軍航空隊の戦記を初めて読みました。イタリアの潜水艦の話など面白い。
 この他も、この戦記は、別に良い悪いという問題ではなく、脇役というか、戦争のロードマップの端っこをいっています。
 そのときの、主力部隊にはいないのですね。だから、他の戦記に絶対に書かれていないようなことが書いてあります。
 たとえば、著者はインド洋から護衛空母海鷹で運ばれたトラック基地で昭和19年2月17日の大空襲に遭遇し、そしてそのままトラック基地に残って「あ号作戦」を裏側から戦っています。
 つまり、マリアナ沖海戦で小沢艦隊の一員として参加したのではなく、連合軍の熾烈な攻撃を受けてほぼ壊滅したまま捨て置かれたトラック基地から、米機動部隊の背後を襲うべく出撃しているのです。
 珍しい体験記ですよね。ちなみに、このときトラック基地の残存戦力は、刀尽き矢折れ、わずか著者の隊の天山2機、九七艦攻4機、零戦13機、月光2機だったそうです。著者は敵の護衛空母の攻撃(爆撃)に成功し、そのまま大宮島(グアム)に避退、愛機もなくなり脱出不可能かと思われましたが、奇跡的に月光を修復して命からがら脱出し、二度と踏むことはあるまいと思っていた内地へ帰還することになるのです。
 内地では、すでに戦死したことになっていました。出迎えた鎮守府の参謀が顔を見てギョッとしたそうです。
 601空162飛行隊では、それまで艦攻一筋であったのに、零戦を使用する戦爆隊の隊長に配属されました。
 艦攻乗りが零戦に転換とは珍しいですね。それでも著者いわく「艦攻乗りといっても、今まで主流部隊ではなくゲリラ戦みたいなのばかりやっていたからこれも当たり前か」と諦めました。21型ですが、零戦は乗りやすかったそうです。
 ただし、零戦で高度300メートルから爆撃すると、水平になったときは高度150メートルくらいで、これでは敵艦対空射撃のいい的であり、艦攻による雷撃よりも戦爆隊はよほど危険であると思ったそうです。
 601空が捷一号作戦の小沢部隊母艦乗組として出撃(著者の戦爆隊だけは除かれた)したため、再び著者は艦攻隊の隊長に返り咲くことになります。
 昭和20年2月には、いったん日本最後の母艦部隊である著者の601空と空母「天城」「葛城」「隼鷹」「龍鳳」でもって第1航空戦隊が編成され、いっときは「天城」で天山による発着艦訓練もしていましたが、わずか10日で、この編成は解散となりました。
 日本海軍は、この時点で船を捨てたのです。

 以後、終戦まで著者は攻撃254飛行隊長として、関東や鈴鹿などの基地で夜間雷撃部隊を率いて戦いました。
 このときも九州の基地からの菊水作戦のために、搭乗員も機体も随時引き抜かれていきましたが、「最後は俺がずべてを率いて九州に飛ぶ」と言いつつ、そのときはやってこず、特攻作戦を頑として拒否しながら、逆に硫黄島の戦いでは隊内から第二御楯特攻隊を送り出すことになってしまいます。このときも、著者が「特攻などによらずとも夜間雷撃で敵艦を屠れるように」と猛訓練をしていたせいもあって、雷撃隊は魚雷を発射した後敵艦に体当たりしました。御楯隊は正規空母サラトガを大破させ、護衛空母を撃沈するなど特攻隊としても有数の戦果をあげるに至ったのです。
 もちろん、著者の心中は複雑であったでしょうが・・・
 
 終戦は、鈴鹿第二基地で再建なった天山雷撃隊の訓練中に迎えました。
 天皇陛下の玉音放送を聞いて「これは諦めるな、頑張れ」ということだと理解して出ていこうとしたところ、司令から「待て、この後総理大臣の言葉がある・・・」と聞いて、その場に残ってそれを聴き、終戦を悟ったそうです。
 玉音放送の後に、首相が説明したんですね。初めてそんなエピソードを知りました。



 
 
 
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