「勇者の海」森史朗

これは凄い本ですよ。副題は「空母瑞鶴の生涯」。
辞書なみの分厚さ、745ページありました。
読み終わるのにどれくらいかかるかと思っていましたが、案外、時間はかかりませんでした。
とてつもなく面白かったからです。森史郎の戦記は「敷島隊の五人」(下記関連記事、カテゴリー戦史・戦記参照)を読んだばかりですが、あらためて著者の実力を思い知りましたね。
森史郎がいなければ、戦後60年を過ぎた現在に、これほど鮮やかに正規空母・瑞鶴の姿が浮かび上がることはなかったでしょう。2003年から雑誌「丸」に4年ものあいだ連載されていた大作です。

私個人の認識ですが、太平洋戦争における日本連合艦隊を代表するのはどの艦であるかと問われたならば、迷わず「瑞鶴」であると答えます。大和でも武蔵でもありません。瑞鶴は昭和16年9月25日に竣工してから、昭和19年10月25日にその生涯を閉じるまでのあいだ、連合艦隊の屋台骨を支えてきた歴戦の正規空母です。真珠湾奇襲作戦からレイテ沖海戦までの瑞鶴の生涯をひもとくことは、まさしく帝国海軍の太平洋戦争の誕生と終焉の歴史そのものなのです。
本作は、初代艦長横川市平大佐がその任に就き退艦するまでのあいだ、実戦としては開戦から珊瑚海海戦までの約半年を追った物語です。たった半年と思うことなかれ、ハワイからインド洋のセイロン攻撃、オーストラリアを望む珊瑚海海戦までその作戦実働距離は途方もない雄大なものです。
物語は主人公が生まれる前の母の紹介のごとく、冒頭は神戸の川崎造船所より始まります。
進水、竣工前の状況も詳しく説明され、著者のこの大作に臨む姿勢と取材力に感心させられます。
「瑞鶴」(瑞は天が降らす吉兆の意)は③計画(まるさん計画。総予算8億、大和含む計32万トン、70隻の軍艦艇建造計画。昭和12年~16年)によって建造が企画された翔鶴型空母です。同型艦は数々の作戦を供にした翔鶴。
25,675トンの巨体は、全長257,5メートル、最大幅29メートル、4万馬力のタービンを4基搭載し、34ノットの高速を誇りました。乗員は士官75名含む1,660名、搭載機数は72機(補9)。開戦時は九九艦爆27機、九七艦攻27機、零戦ニ一型18機が通常編成でした。燃料タンク容量は5,500トン、航続距離は15,500カイリ(1カイリ=1,852メートル)。
本作では搭乗員や乗組員の紹介も詳細で、その人間ドラマや悲劇に何度も目頭が熱くなりました。
200機を超す敵機を撃墜したとされる海軍のエースパイロット岩本徹三も瑞鶴の艦戦搭乗員でした。
赤城や加賀、飛龍といった空母に比べると、第5航空戦隊であった瑞鶴、翔鶴の搭乗員は練度に劣っていたようですが、なかなかどうして出撃するたびに技量が上がっていく様は読んでいて頼もしいです。
ですが、珊瑚海海戦にもなるとアメリカの強さがはっきりしてきますね。これほど戦闘の様子がはっきりと目に浮かぶような戦史は他に読んだ覚えがありません。
敵艦に肉薄する雷撃機や、急降下爆撃機の飛翔、それらを捉えようとする対空兵器の猛火。音まで聞こえてくるようでした。やっぱり勝てるわけのない戦争でしたね。戦術レベルの本書でも随所にそう思えるシーンがたくさんありました。組織的な対空砲火とか、偵察の能力とか、レーダーなど最新兵器とか……
ラストは続編があるような感じで終わるのですが、もしも刊行されたなら真っ先に手にとってみたいです。
森史郎にしか書けません。

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