「われ雷撃す 九三一航空隊戦記」宮本道治

 貴重な海軍第931航空隊の戦記です。
 931空は、連合艦隊の所属ではありません。
 昭和18年11月に設立された海上護衛総司令部に属する航空隊です。
 四方を海に囲まれた無資源の島国のくせにシーレーン防衛の概念が薄かった日本海軍が、被害の急増する敵潜水艦による輸送船団被害にやっと重い腰を上げて作った、護衛部隊です。
 「大鷹」「海鷹」「雲鷹」「神鷹」の4隻の護衛空母を持ち、これら護衛空母が船団護衛の任務に就くたび、九七式艦攻で乗り組んだのが931空であり、普段は大分県の佐伯海軍航空隊基地に本拠を置いていました。
 空母にひも付けされている航空隊ではないのです。対潜哨戒に特化された異色の航空隊です。
 「海鷹」と「神鷹」の戦記(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)を読んで、931空の存在が気になっていた私にとっては、おあつらえ向きの一冊となりました。
 ただ惜しむらくは、著者が931空に配属されたときには、すでに護衛空母が「海鷹」1隻しか残っていなかったことですね・・・

 それでも、激戦をくぐり抜けた931空の足あとが知れる貴重な文献です。
 まったく予想外のことがたくさん書かれていました。
 たとえば、レイテ決戦で囮部隊となった小沢艦隊の空母「千代田」に931空が乗組む手はずだった話とか。
 このときは昭和19年10月20日に空母収容予定で、すでに司令や飛行隊長は「千代田」に乗っていたんですが、急遽、931空は予備に回されたのです。連合艦隊は何をやらすつもりだったのだろう?
 実は、昭和20年になってからは船団護衛や対潜哨戒が主任務だった931空ですが、輸送船団どころではなくなってきたため、ただ1隻残った「海鷹」を標的に、夜間雷撃の訓練をするようになりました。
 そう、護衛部隊だった931空は、風雲急を告げる沖縄戦に雷撃隊として投入されたのです。
 これにも裏話があって、当時の雷撃機の主力は天山艦攻ですから、古い九七式三号艦攻を使用する931空は特攻に回ってくれないか、という幕僚からの打診があったそうなのですが、分隊長である小松万七大尉(海兵70)が、強硬に特攻を拒否したのだそうです。決死隊にはなるが必死隊にはならんと。あくまでも我が隊は雷撃でいくと。
 戦後、931空の戦友会が開かれたとき、「われらが今生きているのは小松分隊長のおかげ」という話が出たそうです。
 もちろん、それでも雷撃ですから、死ぬ確率がとことん高いことに変わりはありません。
 それでも、少しずつ櫛の歯がかけるように消耗していきながら、最後の雷撃隊として、終戦まで931空は戦い続けました。

 著者の宮本道治さんは大正15年・茨城県出身、甲飛予科練12期。偵察専修。
 昭和19年9月末に931空に配属されました。電信員配置。終戦時上飛曹。
 ペアは、神鷹沈没の生き残りである操縦員の福田峰泰飛曹、海鷹に乗り組んでいた偵察員の川村重信兵曹(機長)。
 931空で一番若いペアであったようです。
 昭和20年1月より雷撃訓練を開始し、2月には台湾を基地として船団護衛洋上哨戒任務。
 4月になると沖縄戦のため菊水作戦に参加。喜界島に進出しますが、ダグラス輸送機でやってきた片山飛行隊長と隊付きの整備員らが撃墜されるという、痛恨の打撃を蒙りました。
 5月には天山艦攻で訓練開始。串間基地から天山で菊水五号作戦に出撃するも、不時着水海上漂流(漁船によって救助)。
 しかし、ようやく5月24日の菊水七号作戦において、著者の打電「われ突撃ス」と共に沖縄を取り巻く敵艦隊群に夜間雷撃を敢行、著者機は大型輸送船雷撃轟沈を視認するという、戦果を挙げました。
 攻撃後、すさまじい対空射撃とグラマン夜戦から、決死の退避。「われ、敵戦闘機の追しょうを受く」。
 電信席の著者は欺瞞紙(敵レーダー波妨害の紙。幅3センチ長さ1メートルで100枚を1束にして、このときの著者は10束持っていた)を、効果的に振りまき命からがら逃げ切りました。
 6月、照明雷撃隊(2機1組で、照明機と雷撃機のペアで夜間攻撃する)に編入。
 8月10日、照明雷撃隊として沖縄周辺敵艦船に夜間雷撃敢行。成果不明。
 8月14日、四国観音寺基地に配置異動。そのまま終戦。銀河が抗戦のビラを撒きにきたそうです。

 931空関連ばかりでなく、基地を同じくしていた白菊特攻隊関連など資料が豊富です。
 悲惨な戦況のなかでも、和気藹々とした仲の良いペアの機内の会話など、読みやすい内容の良本だと思います。

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