「半席」青山文平

 直木賞受賞後第一作になるのかな? ミステリー仕立て時代小説連作集。
 全6篇。後にいくほど面白いです。
 読みはじめは「これはちょっと」と思ったんですが、なかなか。さすが直木賞作家。
 江戸市井の雰囲気も身近に感じられますし、御公儀の仕組みも「こんなのあったの! へえー」ってビックリさせられるし、やたら詳しいし。人情を背景にしながらも、後のほうの話は展開自体に迫力があって、思わず唸らされました。
 事件の真犯人を探すのではなく、どうしてそのような事件が起こったのかを解くというスタイルです。
 良かったと思います。

 文化年間の江戸(19世紀初頭)。
 主人公の片岡直人は20代半ば、すべての御用を監察する目付の耳目となって働く、徒目付(かちめつけ)。
 彼の家は“半席”です。
 半席とは、一代御目見のことで、子孫まで幕臣としての身分が保証される旗本ではなく、自分一代だけが召し出された御家人です。彼の父は旗本でしたが、一度きりの御目見で無役に還りました。当人のみならず子も旗本と認められる永々御目見以上の家になるためには、ふたつの御役目に就かなくてはなりません。ただし、これは父子二代で達成しても可です。
 ですから、直人は15歳のときから「逢対」という未明のうちから数ある権家の屋敷に日参し、顔を覚えてもらい召し出されるのを待つという苦労を重ねてきました。厳しいのですね、江戸の官制は。
 そして22歳のとき、奇跡的に小普請世話役に召し出され、徒目付に移って2年。
 ただし、直人にとって徒目付の役目はあくまでも腰掛けであり、次に目指す勘定所の勘定になったとき初めて、片岡の家は半席を脱し、れっきとした永々御目見となって、直人の子は生まれついての旗本となるのです。
 そのためには、ここで安穏としてはおられないのですが、直人より一回り年上で徒目付組頭の役に7年も付いている内藤雅之が、職分上色々な裏事情を知り得る徒目付を頼っての「頼まれ御用」、まあ言うなら警察官が探偵のバイトをするような感じですね、その裏仕事を気さくな感じで直人に振ってくるのです。徒目付のなかには出世を捨てこれを生きがいにしているものも多く、その実入りは代々で築いた生禄を上回ると言われています。
 しかしここで回り道はできない直人は上司の悪魔の?誘いを「半席、半席」と心の声で振り払いつつ、頑なに拒んでいたのですが、ついに成り行きから引き受けるようになってしまったのです。ところがやったら、あんがい人間臭くてこれが面白く、生来の機転から真相を暴くのを得意とする性分もあって、のめり込んでいくのです・・・

「半席」
 旗本に定年はありません。89歳になる表台所頭が、寒タナゴ釣りの途中、イカダから落ちて水死した事件。
 すでに72歳になりながら義父が隠居しないために、この歳でいまだ部屋住みであった後継ぎに疑いがかかりますが・・・

「真桑瓜」
 前章から半年。定年のない旗本には、80歳以上で公儀の役目に就いている者がふた月に一度寄り合う白傘会という会合がありました。その寄り合いで突然仲の良い87歳同士が刃傷沙汰を起こした事件の、真相を暴きます。

「六代目中村庄蔵」
 一季奉公といって、年数を区切って百姓を下士に取り立てる制度がありました。代々家に仕える忠義心篤い奉公人が、なにゆえ主人を殺してしまったのか? 最後になって、このタイトルの意味がわかります。

「蓼を喰う」
 これが一番面白いかも。永々御目見以上の69歳の御賄頭が、辻番所組合(江戸には近所の武家屋敷で防犯を助け合う組織があった。だから同心の数が少なくても治安が保たれた)の仲間内を手にかけた。その意外な真相とは!?

「見抜く者」
 徒目付は襲撃されやすいと言う。旗本の出世がかかる折に、その人物調査を請け負っているので、恨みを買いやすいのです。7年前には組頭の内藤も襲われたことがあり、「直人もそろそろ気をつけよ」と言われていたそんなとき、徒目付たちが通う剣術道場の師範役で同じ徒目付加番が74歳の老剣士に襲撃されました。その理由は?

「役替え」
 6年前、念願かなって直人が普請方世話役に召し出されたとき、同じ町内からも普請方同心に召し出された友人がいました。その友人の父は剣術の先生で、少年時代の直人も通っていたのです。ところが、浅草の場末を検分で見廻り中、その友人の父があろうことか中間の格好で殴る蹴るの暴行を受けているのを発見してしまいます。
 あれから、彼らに何が起こったのか!?


 
 
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この記事へのコメント

半席 - siro - 2016年08月26日 13:34:55

いつも私の読書の参考にさせてもらっています。
焼酎太郎さんのこのブログで青山文平の「半席」が出ているのを知り、早速読みました。

焼酎太郎さんの好みとは微妙に違うのでしょうか。
文章の熱が、戦記ものなどに比べると低いように感じました。

今のところ、個人的には一番好きな時代小説の書き手がこの青山文平氏で、
一応出ている作品は全部読んでいるつもりではいるのです。

焼酎太郎さんのブログを見る限りでは、「鬼はもとより」を除けば、他の作品は読まれていないようですね。
是非他の作品も読んで、そして感想をお聞きかせください。
特に第一作の『白樫の樹の下で』。
ちょっと硬質ではありますが、文章も私の好みなのです。
是非、よろしく。

Re - 焼酎太郎 - 2016年08月26日 22:05:31

siro様、いつもありがとうございます☆

私こそ参考にさせていただいております。
「サクリファイス」は、とにかく読書録を見なければ
出会えることがなかった逸品でした。

青山文平の「半席」ですが、
レビューの乗りは悪かったかもしれませんが、面白かったですよ。
おっしゃられる通り、他には「鬼はもとより」しか読んでいませんが
何か物色しようかと思っていたことは本当です。
近いうちにご推薦の『白樫の樹の下で』を読んでみようと思います。

同じジャンルでは葉室麟も少々読んでいますが、私は青山文平のほうが好きですね。

時代冒険(剣戟)系統ならば、ブログ以前の話にもなりますが、
池波正太郎がほぼ完読で好きです。
戦記冒険小説ならば九州の作家である帚木蓬生の実父をモデルに描かれた「逃亡」は
これ以上の冒険小説は日本には存在しないと思っています。
幕末関係ならば木内昇の「地虫鳴く」は、油小路の決斗をあれほど美しく描いた書物はありません。
おっと船戸与一の「蝦夷地別件」も、幕府隠密関係ならば捨てがたいかと・・・

まあ、人それぞれですけどね。
ぼちぼち行きましょう。
コメントありがとうございましたm(_ _)m



>
> 焼酎太郎さんのブログを見る限りでは、「鬼はもとより」を除けば、他の作品は読まれていないようですね。
> 是非他の作品も読んで、そして感想をお聞きかせください。
> 特に第一作の『白樫の樹の下で』。
> ちょっと硬質ではありますが、文章も私の好みなのです。
> 是非、よろしく。

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