「イノセント」島本理生

 震災から3年。
 生まれたばかりの紡(つむぐ)を抱えて、たったひとりで仙台から東京に出てきた比紗也。
 彼女は、心を硬くすることで、ようやく生きてきた。
 本職である美容師のほかにも、キャバ嬢だってやった。
 信頼や愛情なんて、幻想に過ぎない。わたしはひとりで生きてゆく。
 困ったときだけ下心のある男を頼ればなんとかなる・・・
 そんな比紗也の前に現れた、ふたりの男。
 ひとりは、イベント企画会社を経営する、独身貴族の真田幸弘。
 もうひとりは、14歳で神学校に入寮して以来、神にすべてを捧げる人生を歩んできた、神父の如月歓。
 彼らは、凝り固まった比紗也の心を開かせることができるのか。
 しかし、比紗也は尋常ではない、闇を抱えていたのである・・・
 その正体とは!?
 
 片方とは、性別を超えて同じ人生の重さを共有できるかもしれないが、男女として一緒に暮らせない。
 片方とは、どこまでいっても男と女で、内面をさらけ出すことは自分の人生がさらに傷つく危険をはらんでいる。
 さて、どうすればいい、わたし?
 みたいな感じの、島本理生の一応、恋愛小説。
 実際は、こんなに軽い物語ではなくて、少し重苦しいです。
 面白いかどうかも、微妙。ま、腕がある作家ですから、多少は読ませてくれますが・・・
 恋愛小説史上に残る不朽の名作「ナラタージュ」が100点とすると、本作は65点かなあ。
 「ナラタージュ」を超えるものは生み出せないねえ。もうすでに余生かなあ。
 それでも、人生に一作でも「ナラタージュ」みたいなのを書ける作家が10年に1人くらいしかいませんもんね。
 だからやっぱ、島本理生はすごい。余生といえども、付き合わなくてはいけません。
 ただ、不本意かもしれませんが、文芸小説家としてこれだけ濡れ場に迫力がある方は、いま、いらっしゃいません。
 かといって、エロ作家に転身してほしいというわけでは、毛頭ありません。
 
 この小説、どこがもう一つかというと、比紗也という女性の性格がイマイチよくわからない。
 リアルではあんがい、いがちなタイプなんですけどね。こういう方、たまにいます。
 何を考えているかわからない。男を惹きつけるフェロモンみたいなのを持っているし、モテるのにのめり込まない。
 ただし過去がすごい。家族がいません。ただひとり愛していた夫は震災で死に、生い立ちの貧しさゆえ夫の家族とはハナから折り合いが悪かったために、見守ってくれる人間もおらず、非常に寂しく出産しました。
 逃げるように、生きるために、なんのツテもない東京に出てきました。
 このあたり、作者の書き様もうまく、読んでいて身につまされましたし、ここらでようやく、比紗也という女性の生き様が、ある程度わかってきたのですが、真田に対する不信感がクドすぎたと思います、最後らへんで。
 もちろん、十分ありえるんだけど、怪我もしたしね、でもあそこまできて後戻りするのはクドいわ。
 もう勝手にせいや、こんな女ほっとけと思いました。
 あそこは、ひょっとすると、作者の書き方が悪かった可能性があります。意図というか空気がこちらに伝わりきれていないかな。

 比紗也のような複雑な女性に対して、真田と如月という対照的な男性ふたりの、恋のさや当てというのが、この物語の本筋であったのでしょうが、どこか中途半端に終わりましたね。
 1年ぶりに再会の意外にハッピーエンド? なラストも、別段感動はありませんでしたし。
 如月の、年が明けたら比紗也のための最後の仕事というのが、すわ、おっさんを殺すのかよと思いましたが、真田を函館にやることだったんですねえ。これはまあ、よかった。
 女を女としてしかあつかえない男。ふーむ。
 人間としてあつかってくれる男は、たいていブサイク。ふーむ。
 どっちも必要なんじゃないでしょうか。難しいねえ、男と女は。
 ただ、溢れかえる性欲をどんなことして押さえつけてでも、異性の友人というのは、何者にも代えがたい存在ですよ。
 この小説でわたしが一番好きだったのは、キリコですねえ。



 
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