「東京者がたり」西村賢太

 ご存知・史上最低の人格者西村賢太先生による、極私的な東京脳内散歩。
 家庭内暴力をふるって縁が切れた母を思い出す錦糸町の商業施設や、暴行で逮捕されて護送車から見た隅田川の風景など、江戸っ子である著者が人生の節目節目の出来事を絡めて、都内のスポットを語るというもの。
 巻末には、玉筋袋太郎なるマイナーであまり知られていない四流芸人との対談付き。
 西村先生は、自らの身内に流れる純然たる東京っ子を自覚しており、それは誇示でも見栄でもなく、日常的に無意識の成長過程で身についたものであり、所詮、地方より気負って上京してくる田舎者には絶対に身につかないものだそうです。
 東京人特有の、本来の意味での野暮ったさというものは、上京イコール洗練とはき違えている、そこいらの百姓学生風情には到底理解の叶わぬものであろう、とも述べられています。
 
 なるほど、少しわかる気がしないでもないね。私は東京はあまり知りませんけども。
 確かに、ついこの前まで牛の糞かついでた奴がいつのまにやら帰ってくると標準語になっているのは、見ていて痛い。
 本当に保守的で排他的なのは、江戸っ子ですからね。その壁は地方人では破れません。
 かといって、この対談に出てくる玉筋袋太郎っていうの? 元が日本人かどうかわからんようなのに言われてもねえ。
 代々の江戸っ子という、この“代々”はおうおうにして嘘が多いです。

 意外だったのは、本書でも相変わらず「苦役列車」の映画を酷評している西村賢太ですが、あのえーと、名前忘れた俳優だれだっけ、ウォーターボーイズの、まあいいや、彼が扮する北町貫多に、実はイヤなまでの江戸っ子意識を求めていた、ということです。それがまったくなかったから、あの映画は駄作であると酷評しているらしいのです。
 なるほど、それはまったく想像だにすらしていませんでした。
 私は「苦役列車」観ましたけど、とても面白かったと思いましたよ。
 でも西村賢太は、あのしゃべりようは脳が欠落しているみたいじゃないか、実際の北町貫多はああじゃない、監督も俳優も関西の人間が作ったような映画だと言うんですね。
 びっくりですわ。てっきり、駄作だ駄作だというのはネガティブに宣伝してるのかと思ってましたが、彼には彼なりの主張があったのです。しかもそれは、江戸っ子にしかわからないという、美意識の問題。うーん、わかりません。
 面白かったけどねえ。私が田舎者だからかなあ(笑)
 
 さて、昭和58年に15歳で家出して初めて一人暮らしを開始した家賃8千円の鶯谷、その後の飯田橋、新宿一丁目など、風呂もろくに入っていなかった頃の垢まみれな西村賢太の思い出話は、やはり面白いです。
 一番面白かったのは、日暮里のビジネスホテルでしょうか。
 たまさか入った分不相応のホテルで、風呂やら冷蔵庫やら自販のハンバーガーやら非日常の感激を味わうという。
 味をしめて次に行くと「満室です」とすげなく断られ、二度と泊まれなかったのには、何か裏があるのでしょうか。
 これは、わかる気がしました。
 あと、この人、墓が好きだねえ、なぜでしょうか。
 墓に関する話題が多かったです。有名人の墓でひっそりとその人を偲んだり。
 図体や外見に似合わず、ロマンチストなのでしょうね。
 なんやかやで、15で家出して最底辺の港湾人足で働きながら世を過ごしてきたこの方の半生っていうのは、とても面白く、ある意味力強く、勇気づけられるのは確かです。どうにかなるんだよね、生きてりゃ。


 
 
 
 
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