「ウォーク・イン・クローゼット」綿矢りさ

 なんだかよくわかりません。
 2013年と2015年に『群像』に掲載された中編小説2篇で構成されたのが、本書。
 正直言って、綿矢りさの書いたものの中では、下の中の部類。
 これが他の作家の書いたものならいざしらず、綿矢りさらしさがまったく感じられない中途半端な作品です。
 どうしちゃったんだろうねえ。
 ひょっとしたら、創作の泉が枯れちゃった?

 史上最年少で芥川賞を受賞して颯爽と文壇にデビューした綿矢さんですが・・・
 私は同世代の者として、非常に注目しておりました。
 ちなみに芥川賞を同時受賞した金原ひとみも大好きな作家です。
 このときの芥川賞は30年に一度くらいの、豊作であったと思っています。
 綿矢りさ、金原ひとみ、どちらも稀有な女流小説家であることに間違いありません。
 まあ、最近確かにふたりともあまりパッとしないんですがね。
 ただ金原ひとみの場合は、情緒不安定ゆえの爆発力があり、「蛇にピアス」「マザーズ」など彼女にしか書けないものがあることは事実であり、絶対的な強みがあると思います。本が売れる売れないは別にしてですよ。
 ところが、綿矢りさの場合は、例えが難しいですが、特色がパステルカラーなものだから、差別化が難しい。
 その中でも、傑出した人間観察力でもって、これぞ綿矢りさというものを生み出してきました。
 私が一番好きなのは、「かわいそうだね?」に入っている「亜美ちゃんは美人」という作品。
 これは、読みながら物語の登場人物と同じタイミングで泣けるというものすごい小説で、そのどこまでも深い人間分析力(とくに女性に対する)には、感動というよりむしろ背筋がゾクッとするものを感じさせられたと思います。
 あれは、綿矢りさの代表作。間違いない。
  ところが、最近はらしくありません。
 なぜでしょうか。
 ひとつは、これまでの作品だと、小説の登場人物の年代に書いている自分自身が近いということがあったと思います。
 ところが、物語と違って人間は年を取りますから、オバサンになることによって、これまで自分が作っていた若者の世界からの齟齬が出てきたのではないかということ。自分が若い時と今の若い世代ではやはり、環境が違いますからね。
 だから、「大地のゲーム」みたいに作家として新しい方向を目指そうとして失敗している状態なのではないですかね。
 本書に収めれた2篇のお話も、なんとかエンタメ性を持たそうとして中途半端になって失敗しています。
 途中まではそれも成功しかかっているのですがね(私ものめり込んだ)、行き着くところがなんだかおかしい。
 結局、何が言いたかったのか、なんの話だったのか、わからないのです。
 予算のないVシネマみたいな、安物の話になってしまいました。近所のおっさんでも書けると思う。
 本当に、綿矢りさらしくない。
 復活を熱望しています。

「いなか、の、すとーかー」
 故郷のど田舎に帰って製作に励む若手陶芸家が、東京から追いかけてきた熱烈なファンにストーカーされるというストーリー。物語は二転三転します。途中まで、綿矢りさの新境地かと思って楽しんで読んでいました。
 が、薄っぺらい。Vシネ。結局、なんだったの?という。
 田舎のストーカーとは、都会に対する嫉妬であるという本筋で描ききれていません。
 ただ、ストーカーによる事件が最近多発してますから、偶然ですが、それに関連付けて読むことができました。
 愛しながら憎むというね。愛=憎悪ではないはずなのに、どうして両者は成立しているように見えるのか。
 見えるだけで両立していないのか、あるいは他人の男女間で愛という関係は幻かもしれません。
 自分の親や子供を愛するように、恋人や配偶者は愛せないのではないかということです。
 だから自分だけのものというように、取り込みたがってしまうのですね、性の対象だから。
 
「ウォーク・イン・クローゼット」
 これもよくわかりません、物語に芯がないです。
 早希という28歳のなかなか恋愛が成就しないOLが主人公。彼女は洋服のことが好きでたまりません。
 彼女には、売出し中のタレントである、末次だりあという幼なじみの親友がいて、彼女の住居には仕事柄、ウォークイン・クローゼット、つまり衣装専用の小部屋があるのです。
 早希は恋愛に真面目であるがゆえに、色々な男性とデートして本当に自分に合う相手を見つけようとしています。
 パネェ君(いつもパネェ!と叫ぶ笑)や、怪しい紀井さん、本命の隆史クンとかですね。
 ですから、洋服を男に喩えるということが、この表題作の展開の元であり意味でもあるかと思ったのですが、終盤、だりあがパパラッチに襲撃されたりして、思わぬどっちらけの方向に走ってしまったのは、本当に残念でした。
 面白かったのは、パネェ君だけ。
 以前の綿矢りさならば、早希とだりあの幼い時からの確執を混じえながら、本当に深い長編を書けたと思います。
 これほどまでに薄っぺらいと、もうなんとも言いようがないですね。


 
 
 

 
 
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