「ネアンデルタール人は私たちと交配した」スヴァンテ・ペーボ

 古代生物のDNA回収に数十年の時を費やした著者が行き着いた、衝撃の結論。
 我々のDNAにはネアンデルタール人の遺伝子が数%(1~4?)含まれているという事実。
 ということは、現世人類はネアンデルタール人と交配していたということ。
 つまり、ネアンデルタール人は絶滅したのではなく、私たちのなかに生きていた!?

 「ふーん」では済まされないですね。
 ネアンデルタール人とは、約3万年前に絶滅したと言われている、現世人類にもっとも近い絶滅種です。
 ドテチンまではいきませんが、骨格は現世人類より頑丈で大きく、粗暴で愚鈍だと思われていました。
 わかりやすく言いますと、現世人類の祖先は、1200~1400万年前にオランウータンと枝分かれし、700~800万年前にゴリラと枝分かれし、400~700万年前にチンパンジーと枝分かれしています。
 そして、ネアンデルタール人とは約30~50万年前に、祖先が枝分かれしています。
 つまり、種類が違うのです。猿とまではいきませんが、今の人間ではありません。
 具体的には、我々の祖先がアフリカにいる間に、先立ってアフリカを出てヨーロッパ方面に進出した集団の子孫ではないかと言われています。そのまま、西アジアからヨーロッパで生息していました。
 我々は彼らから大きく遅れて、約5万年前にアフリカから全世界に向けて大移動を開始しました。
 そして、中東やヨーロッパでネアンデルタール人と出会ったのです。
 それからしばらくして、彼らは絶滅しました。
 当然、我々現世人類が駆逐したのだと思われていました。
 知恵を持つ優秀な我々が、愚鈍な彼らを滅亡に追いやったのだろうと。
 ところがどうも、様子が違ったようなのですね。

 まず、当初に著者も考えていた通り、子供ができるというのが不思議。
 しかし、DNA配列は、種と種のつながりを形態やふるまいという先入観にとらわれることなく、正確に暴き出しますから、そういう分析結果が出たのなら、それにそって考えるしかないのです。
 我々にDNAに彼らがいるのは事実なのですから。
 だいたい、ネアンデルタール人からすれば、我々のほうがサルだったかもしれません。
 わからないからね、まだ。骨しかないし。研究も途中ですから。
 ひょっとしたら、寒いほうにいたから肌は白かったかもしれない。
 謎なのは、アフリカ人を除く全世界の人間にネアンデルタール人のDNAが含まれているということ。
 中国人にもパプアニューギニア人にも含まれていますが、アフリカ人には混じっていません。
 この謎に対しては、著者が鋭い推理をしており、私も納得したのですが、ちょっと紹介すると、5万年前に人類がアフリカを出た時あるいはその前に出たグループが、アフリカを出たところのアラビア半島あたりでネアンデルタール人に出会い、何らかの接触があって(長い年月に及ぶ)そこで交配して子供ができ、その後全世界に散らばっていったという説です。
 だから、世界中の人類にその血が行き渡る一方で、アフリカには帰っていないのでDNAが残されていないのです。
 この説は筋が通ります。ネアンデルタール人が各地に散らばったのではありません。骨が見つかっていませんから。

 じゃあ、ネアンデルタール人の遺伝子が入っていたところで何なの? と言われるとその違いは、これからの研究が待たれるところですが、現在可能性が示唆されているのは、免疫系統での寄与があったのではないかと言われています。
 つまり、先にアフリカから出ていた彼らから外地の病気に対する強さを受け継いだと。
 まあ、このへんの分子生物学は日進月歩ですから、もうじき明らかになるでしょう。
 その意味でも、本書は、DNA研究の歴史みたいな本でしてね。
 アナログ時代の、著者の失敗に失敗を重ねる、苦心惨憺たる様子が詳述されています。
 古代生物やミイラのDNA抽出に、現代人やバクテリアのDNAが混入し、汚染されるわけです。
 有名な科学誌に論文を提出しても、撤回とか後になってミスがわかるとかね、小保方さんのこともなんだか、これを先に読んでいれば、「ああ、科学ってのはこういうものなんだ」って大目に見れたかもしれません。もちろん、盗用やら改ざんは言わずもがなですが。同じテーマを追うライバル研究者との激しい争いもありますし、ほんと生き馬の目を抜く世界だなぁ。
 大変だわ、科学の世界は。
 機器が進化し、ようやくこの分野の概念が裏付けられるようになってきて、著者の頑張りが報われたのです。
 本書は、ネアンデルタール人以外にも、著者がDNAを鑑定したデニソワ人(現世人類ともネアンデルタール人とも異なるシベリア南部の謎の人類)のミステリーとかですね、アイスマンも著者が関わっていますし、最新の研究成果は別にして分子古生物学の入門書としても読み応えのあるものだと思います。


 
 
 
 
 

 
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