「薄情」絲山秋子

 絲山秋子と津村記久子の書くものは雰囲気が似ていると感じるのは私だけでしょうか。
 ふたりとも好きな作家ですが、偉そうに言う割には数を読んでないんですけどね。
 なんだかこう、肌触りというか読触りが同じような気がします。
 その中でも何が違うかといえば、おそらく絲山秋子が東京の出身で、津村記久子が大阪の人間であるという、東京の人間と大阪の人間の産み出すものの違いみたいなものを感じます。
 そんなのこじつけだよ、と言われればその通りで、私が色眼鏡で見ているだけなのかもしれませんが。
 しかし、絲山秋子の世界というのは、津村記久子のよりも固くて重いと感じます、もちろん、いい意味ですよ。
 同じ題材でも津村さんのは柔らかくて軽い、当然、こちらもいい意味でですよ。

 で、本作。
 舞台は群馬県高崎市の辺。詳しく言えば合併前は群馬県群馬郡群馬町という場所。
 うそだろと思って調べると、本当にあった。
 「あーねー」とか帰ることを行くって言うなど、しっかり方言も混ぜられています。
 こういうところは、絲山さんは生真面目というか、リアルだよね。
 主人公は、宇田川静生という、伯父の神社の跡を継ぐ予定である男。未来の神主。國學院大學卒。
 齢ははっきり書かれていませんが、一学年下で名大を卒業した蜂須賀が8年前に結婚したという唯一の手がかりで推測すると、おそらく30代半ばではないかと思われます。
 宇田川は将来の神主ですが、定職には就いていません。神社の手伝いもしますが、5月から半年間、嬬恋でキャベツの収穫のバイトを住み込みでしたりしています。実家住まいとはいえ、生活は不安定です。伯父の神社を継いだとしても、祭りや地鎮祭や冠婚葬祭といった宮司の仕事だけでは食べていけません。
 不規則で儲けがないのに結婚して跡継ぎも求められる。そんな自分の立場に、明確に意識しているわけではありませんが彼自身少し嫌気がさしているような感じです。どうなるんだろ、どうにかなるのか、みたいな。
 この物語は、そんな宇田川くんの、前橋に観測史上最高の73センチの積雪があった2014年2月から翌年の夏までの、とりとめもないヒューマンドラマ。彼はどうなるのでしょう。

 彼には無意識にニヤニヤしてしまうクセがあります。そういう人っていますよね。
 一方で、彼は無意識に嫁を探しています。
 なんにも考えていないようでいて、いや実際に彼は何も考えていないのですが、無意識の意識で彼は、久しぶりにあった高校の後輩の女性を、嫁として値踏みしていました。
 そんな反動が、爬虫類系の女性を好むという性癖に現れていますし、無意識だからこそ、変人工房で鹿谷と一緒にいる彼女を見たときに、嫉妬したのです。
 他にも色々な比喩や暗喩が織り込められていますが、作者が言いたかったことは意識の表と裏ということであって、このことがズバッと書かれているのは、
 「誰かを抹消してしまうような薄情さで、よそ者が持つ新しさを考えなしに賛美するとかって、根底的には同じなんじゃないか」という部分。
 この一文は凄いと思います。この一文のための物語といってもいいでしょう。
 さすが、絲山秋子。これは一般人では、絶対に思いつかないというか、言葉にできないね。
 薄情というのは、そこに心がないのです。ですから、簡単に褒めることもできれば、簡単に貶すこともできます。
 同じなんですね、根底は。表に現れたものが「褒める」か「貶す」という形になっているだけで、本質は同じなんです。
 可哀想なのは褒められて喜んだほう。
 怖いよね、人間は。
 そしてそれほど時間もかからずに、褒めたことも貶したことも忘れてしまう。
 されたほうは、覚えている。
 怖いねえ。
 本作では、東京から群馬にきた芸術家(よそ者)の工房が火事になった物語終盤の一件で、そのことを表現しています。
 絲山秋子の凄みを見たような気がします。
 やはり津村記久子より、固くて重いよね。


 
 
 
 
 
 
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