「職業としての小説家」村上春樹

 十二章からなるエッセイ。
 なぜ自身が小説家になったのか、なれたのか、それが続いているのかという「小説家とは?」的なものから、小説家になる前は何をしていたのか、学校で何をやっていたのか、どうやって海外で小説が売れるようになったのかという回想、そして現在の教育システムや原子力に対する批判が絶好調な「村上の主張」的なものなど、本書は全般を通じて、村上春樹という人間はどういう人なのか、ある程度知ることができる内容となっています。
 自伝的と付けたいところですが、あとがきでは「そういうのじゃない」そうです。
 読み始めて、これはなんだろうと思いましたね。
 やたら口語といいますか、講演調なんですよ。
 ですから、村上春樹が講演したものを文字に起こしたのかと思いましたが、違うそうです。
 文芸誌「MONKEY]が創刊されるにあたって、「じゃあこれを」と渡したものだそうですよ。
 なんでも、こういうエッセイを書き貯めておいたらしいです。
 講演調で書いてみたら、しっくり来たらしいんです。
 それを読んだとき、ものすごく不思議な気がしましたね。
 なんだかよくわかりませんけど、この方に違和感を感じました。
 悪い意味ではありません。
 私はこの方の作品を9割方好きで読んでいますからね。
 しいて言うなら、やっぱり宇宙人はいた的な感じでしょうか。
 いつ使われるかもしれないこれを、講演調で書いて置いておいたことに対してですね。
 あとがきでそれを読むまでは、「なんだ村上春樹もふつうのおっさんじゃん」と思っていましたが、やはり違う。
 たぶん私のような凡人が言うその意味が、村上さん自身にはわからないだろうなぁ。

 まあ、それはおいといて。
 教師の両親を持つ一人っ子として関西に生まれた村上春樹が、神戸の公立進学校を「中の上」の成績ながら英語原書のペーパーブックを読みつつ早稲田大学に入学、学生結婚、ジャズ喫茶経営、手形が不渡り寸前になるなど借金を返済することに明け暮れた20代を経て、30歳を目前にした1978年4月、神宮球場でファンであるスワローズの試合を観戦中、突然天からの啓示のように「そうだ、小説を書こう」と思いつき、店を閉めてから深夜キッチンテーブルで原稿用紙に向き合い、デビュー作「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞、あれよあれよというまに作家への道は開けたものの、芥川賞候補には2度なるも落選、文壇と交わることもなくまた個人や作品への風当たりもきつく感じ、海外に執筆場所を求めて200万部を超す空前のベストセラーである「ノルウェイの森」を書き上げて生活は安定、職業作家として己の気の向くまま筆の向かうままに一日一度ランニングしながら好きな小説を書いて生きてらっしゃる、それがまあ、ここに書かれた村上春樹という人の、おおよそのところですかね。
 意外だったのは、国内での風当たりがきつかったことを何度も繰り返し書いていらっしゃることでしょうか。
 私は「ノルウェイの森」からのファン、といっても刊行されてから10年以上経って読んだ(笑)ので、この初期のころの苦労というか文壇での評判とかいろいろを知らないもんですからね。
 文学賞についてという章があって、結局受賞することのなかった芥川賞のことについても書かれています。
 かなり直接的で機微に触れる話題、と自分で言っておられます(笑)
 言えば言うほど嘘に聞こえるが本当にいらなかったんだというです。私は信じます。
 
 面白かったのは、小説の執筆の仕方について。
 自らの内的衝動に従って自発的に小説を書くため、つまり締め切りに追われたりということがないために、俗に言うライターズ・ブロック、小説が書けなくなるというスランプはいっさいないそうです。
 早起きして一日400字詰め原稿用紙換算で10枚をきっちり書く。だいたい5時間。あとの時間は自由。
 小説を書き始めて35年になりますが、30年前から毎日ランニングしているそうです。
 小説を書き続けるためには強固な意志が必要であり、意志の宿る身体が常に健康でなければならないそうです。
 そして驚いたのは、いったん書き上げた小説を数えきれないくらい何度も書き直して手を加えること。
 これは意外でした。音楽を演奏するように文章を書いているという点は、私もこの方の小説を読んで本当にそういうリズムを感じていたので、天才的にあまり推敲をしないのかと思っていましたが、そうではなかったのです。
 作品を俯瞰して直すべきところは徹底的に手を加えるなど、ある意味職人的に作品を仕上げていたのです。
 これから小説を書こうという方には、勉強になる本でもあろうと思います。
 あの村上春樹でさえ、こうなんだから、ねえ。
 努力なくして天才なしだよ、やはり。

 「多崎つくる~」は私的にはつまらなかったので、できたら「海辺のカフカ」みたいなのをもっかい読んでみたいですなあ。
 なんだかんだですが、正直、小説というスタイルで強烈なオリジナリティも衝撃を感じさせてくれたのは、私の年代では、村上春樹くらいのもんですから。
 これからも期待して待っています。



 
 
 
 
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