「天皇陵の謎」矢澤高太郎

 わが国の歴史の中で最大の謎は、本能寺の変でもなく坂本龍馬暗殺事件でもなく、日本という国はいつどのようにして出来上がったのか? ということです。
 日本人としてのアイデンティティを真っ向から問う核心的議題なのですが、曖昧模糊としてわかっていません。
 だいたい3世紀初頭くらい、ヤマト政権かどうかは知りませんが、有力な中央政権の勃興期の頃のことですね。
 紀元後のことなのに、いまだに邪馬台国はどこにあったのか? 卑弥呼の墓はいずこに? などと言って右往左往しています。
 きっと永遠にわからないでしょう。
 ちなみに、邪馬台国も卑弥呼も、支那が勝手に当てた漢字であって、残念なことに卑しくなっています。
 本来ならば帚木蓬生の小説のように「日御子(ひみこ)」であってほしかったですが。
 不思議なくらい文書というものを残さなかったのですね、わが古代王朝は。字が苦手だったのでしょうけども。
 文献史学、考古学の両面から確と実在が証明されているのは、第21代雄略天皇にまで遡らなければなりません。
 もちろん私は、初代神武天皇もモデルとなる人物がいたに違いないと思っていますが・・・
 古代のことを窺える資料である日本書紀、古事記でさえ、古墳時代から300~400年経って書かれたものです。
 今の我々が、関が原の戦いを宙で想像して小説を書くようなものです。
 どれだけの整合性があるでしょうか。
 しかしここにきて、世紀の発見というべき重大な動きがありました。
 奈良県桜井市の箸墓古墳の存在です。これが、想像されていたより古い3世紀のものであり、おそらく大和政権初代大王(おおきみ)の墓と見られる、という見解が定着しつつあります。
 これがズバリ卑弥呼の墓なのか、あるいはその跡を継いだという台与(とよ)のものなのか、あるいは卑弥呼を補佐して国を治めたという男弟(だんてい)のものなのか、それはわかりません。
 しかし、これまで考えられていたように邪馬台国とは弥生時代のものではなく、古墳時代のものであるという可能性が高くなりました。そして周辺には、纏向集落群の存在が知られ、これが邪馬台国の有力候補に踊り出てきたのです。
 箸墓古墳は、第7代孝霊天皇皇女の倭迹迹日百襲姫命の墓と治定されていますが、同じ女性であるとともにシャーマン的な卑弥呼と雰囲気が重なる人物とされています。
 とにかく、箸墓古墳はわが国発祥の謎を解く大きなカギを握っている場所であるのは間違いありません。
 よっしゃ、考古学者の出番だ、はよ掘りなはれ。
 だがしかし。発掘できないのです。調査できないのです。
 箸墓古墳は「陵墓参考地」であり、宮内庁の管理下にある禁断の領域であるためです。

 この本、なかなか良かった。
 同じ天皇陵の謎をテーマに書かれた「古代天皇陵の謎を追う」大塚初重より、わかりやすいですね。
 著者の矢澤氏は文化財を担当する元新聞記者であり、歯に衣着せぬ物言いも性に合いました。
 大塚先生のは、奥歯に何かはさまったような“奥ゆかしさ”がありましたが、本書はありません。
 徹底した事なかれ主義と現状維持を金科玉条として近年の考古学の成果など一顧だにしない宮内庁、とこき下ろしています。
 宮内庁が管理する陵墓は、全国に896基あります。これらの発掘調査を許可することは絶対にないそうです。
 まあ、わからないではありません。
 墓を暴くことになりますからね。学問が倫理に勝る道理はありません。これは天皇も一般人も一緒です。
 しかし、箸墓古墳だけはなんとかしないといけないでしょうなあ。
 もっとも、本書は間に合っていませんが、箸墓の周辺を探査することは最近できましたから、風向きも変わってるのかもね。

 しかし恐るべきは盗掘ですなあ。最悪ですよ。
 ほとんどの陵墓は、中近世に荒らされて石棺に収められたお骨さえ残っていません。
 古代の天皇陵は律令制の衰退とともに荒廃の一途をたどり、祭祀は途絶え、伝承すら曖昧なものになりました。
 宮内庁の治定は、被葬者と陵墓がかなりの確立で一致していないというのが考古学の見解です。
 戦国時代では、砦や城として使われた陵墓もたくさんありました。
 かつての天皇の陵墓を特定しようという研究が始まったのは、江戸時代になってからです。
 本書で驚いたのは、でかい前方後円墳で有名な大阪の伝仁徳天皇陵が、江戸時代と明治に2回調査されていたことです。
 江戸のときには、すでに盗掘されていたようですね。
 しかし明治時代に、県令が鳥の糞を掃除するという名目で発掘したのは、その好奇心はよくわかりますが、よく思い切ったことをしたなあとビックリしました。無事だったのでしょうか。
 ボストン美術館には、仁徳陵から出たという立派な遺物が収蔵されていますが、こちらもまた謎です。
 宮内庁は現地に赴いて否定したそうですが、ではこれらの遺物がどこから出てきたのかということになります。
 
 しかし、今ふと改めて思ったのですが、どうして古墳に名前をわかるように刻みでもしたものがなかったのでしょうね。
 現在の我々の墓でも、名前が入っていないものはないでしょう。
 天皇の陵墓だけではなく、日本には15万基の古墳がありますが、ほぼすべて名前が入っていないそうです。
 墓誌というのですがね、被葬者が誰かわかるように。中国や朝鮮半島にはあります。
 これが現代人からして、一番の謎だと思うのです。


 
 
 
 
 
 
 
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