「巡洋艦高雄と共に」山本佳男

 高雄ら巡洋戦隊が、空母千代田を護る鉄壁の配置についた直後だった。
 よく晴れた西の空から、何百機もの飛行機の大編隊が向かってくるのに驚いた。
 接近してきた機影は、天山艦上攻撃機や九九式艦上爆撃機などで、はるか西方の機動部隊に所属する攻撃隊であった。
 主力である小沢艦隊の、大鳳や5隻の空母から飛来したのだ。
 マリアナの空を圧するようなこの大編隊に、私は「いまだ南太平洋の制空権は我にあり」と強く思った。
 するといきなり、高雄の右舷の高角砲が轟音と共に、弾丸を発射した。
 我々は何事か、と思って見守っていると、機から高雄へ短距離信号が入ってきた。
 「こちら日本機。射撃してきた者の艦職・艦名を名乗れ」
 なんという慌て者だろう。こんなことで戦闘ができるのかと思った。


 著者は、教壇から師範徴兵で重巡洋艦「高雄」に乗組み、戦後は山梨で校長先生を務められた山本佳男さん。
 当初は「鬼の高雄・魔の第二分隊」と言われた艦橋真下左舷の12.8センチ高角砲第2砲塔の信管手。
 信管手とは、計器盤を使って高角砲弾を目標物附近で炸裂させる役目です。
 後に二等兵曹に昇格してからは中部四番三連装25ミリ機銃の射手が配置となりました。
 最初40ページは太平洋戦争概論で進み、どうなることかと思いましたが、読みでのあるいい戦記でした。
 上記は、マリアナ沖海戦の空母千代田護衛戦で、我が艦のことは顧みず、迫り来る敵機動部隊艦載機の空襲から虎の子の空母・千代田を必死になって守る様子はたいへん迫力がありました。
 千代田の上空千メートルに空が真っ黒になるくらい弾幕を張っている中、それでも敵機が突っ込んでくるのですよ。
 大敗北で帰投するとき、日本の空母が炎を吹き上げて轟沈していくのを見たそうです。なんだろう? 翔鶴だったのかな。
 千代田の搭載機30機中、還ってきたのはわずか3機。甲板が壊れていたので着艦はできませんでした。
 千代田は沈みませんでしたが、中破しました。このとき高雄に被害はありませんでした。
 しかし昭和18年7月26日に海兵団を出た著者が乗り組んでから、高雄は出撃したラバウルで重油給油中に空襲され2番砲塔に被爆して23名の死者を出し、捷一号作戦では栗田艦隊の中核として出撃し、パワラン水道で敵潜水艦に雷撃され、右舷中部と後部に3発の魚雷を受け、爆雷が誘爆、後部甲板が吹っ飛ばされスクリュー4本中2本が消失しました。
 大破した高雄は駆逐艦若月に護衛され、シンガポールにようやく辿り着きますが、もう二度と動くことはありませんでした。
 栗田艦隊には、姉妹艦で南方作戦など大戦中ほぼ行動を共にした愛宕と、同型艦の摩耶、鳥海もいましたが、すべて沈みました。動けなくなったとはいえ、撃沈されなかったのは高雄型では高雄だけです。
 魚雷を3発も受けて、よくぞ耐えたと思うのですね。
 機銃射手だった著者は負傷者救助に走り回りましたが、その模様は凄惨の一言に尽きます。
 
 動けなくなった高雄は、艦橋は通信施設があるのでそのまま残し、セレター軍港で防空砲台となりました。
 まぐれ当たりでしょうが、主砲の20センチ水上弾でB-29を撃墜し、パラシュート降下した搭乗員を捕虜にしたこともあります。
 著者は、25ミリ機銃を下ろし、マングローブ林に陸上陣地を構築する責任者になりますが、戦闘はなくそのまま終戦。
 捕虜になった著者が、昭和21年6月米軍のLS艇で日本に復員してこの物語は終わります。
 高雄は、昭和21年10月、イギリス軍によって海没処分となりました。

 以前にも戦艦大和に乗り組んだ学校の先生の本を読みましたが、師範徴兵の戦記としても興味深かったですね。
 普通なら短期現役兵で数ヶ月で勝手に昇格して元の学校に帰るはずの教員が、この頃は現役バリバリの兵隊として使われました。師範学校といっても、この時分は皇民教育真っ盛りで、軍隊学校と変わりありませんでしたが。
 山梨師範学校時代には、優秀な生徒が全国から選ばれる「満州建国勤労奉仕隊」として満州を旅行したそうです。
 新潟から到着した朝鮮では、明確な反日感情を目にしたとか。
 満州建国勤労奉仕隊。なんか今の北朝鮮みたいですな。
 著者は小学校6年生のとき、国語の教科書にあった「軍艦高雄の一日」という章を読んで高雄に憧れ、修学旅行では偶然にも高雄の艦内を見学させてもらって感動したそうです。兵隊になれば、絶対にこのフネに乗りたい・・・そんな思いが実現したのですから、稀有なことでしょう。
 幸いにも、著者も高雄も、なんとか戦争を生き延びた。仲間の巡洋戦隊は全滅し、すぐ隣の戦友が瞬く間に戦死するような、修羅をくぐり抜けた両者。読むに値するいい本でした。


 
 
 
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